GLAMPING VILLAGE 紅葉の里(北海道新冠町)
泊まれる3Dプリント建築
花や森などをイメージした文様を印刷 発注:太陽の森ディマシオ美術館 設計・施工:久保田組、會澤高圧コンクリート
全3604文字
夏は涼しく、冬は冷え込む北海道新冠町にある美術館が、3Dプリンターで宿泊施設を建設した。小さな寝室棟の壁には目を引く文様を施し、断熱材も仕込んでいる。
北海道新冠町に完成したグランピング施設の1つ。周りを取り囲む塀と、卵のような形状の寝室棟「sinta(シンタ)」が印象的だ。建設には3Dプリンターを使った(写真:船戸 俊一)
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新千歳空港から車で2時間ほど行くと、緑の木々に包まれるようにしてたたずむ「GLAMPING VILLAGE(グランピングビレッジ) 紅葉の里」が現れる。北海道新冠(にいかっぷ)町の内陸部、日高地方の自然に囲まれた敷地でオープンしたグランピング施設だ。発注者は隣接する「太陽の森ディマシオ美術館」。7月28日から営業を開始し、早くも宿泊希望者が殺到している。
ディマシオ美術館は、フランスの画家ジェラール・ディマシオ氏の作品を展示するため、2010年に開業した私設美術館だ。「来館者にはせっかく遠くまで来てもらうのだから、泊まって作品をゆっくり見てもらいたい」。美術館の谷本晃一専務はそうした思いを抱きながら、宿泊施設の建設を10年以上前から模索し続けていた。
依頼から1年以内に開業へ
谷本専務が會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)の3Dプリント技術を知ったのは、地元の建設企業からの紹介がきっかけだった。同社は屋外トイレ施設などで3Dプリントの実績を積み上げていた。
具体的な協議が始まったのは21年8月だ。それから4カ月の間に両社でデザインのコンセプトや実現に向けた検討を重ね、22年1月に着工。7月には完成、開業させるという急ピッチのプロジェクトだった。
建設したグランピングサイトは3つある〔写真1~4〕。それぞれ高さ1.2mほどの塀で囲んだサイト内に寝室棟の他、トイレや洗面室などの水回りを収めた棟、東屋のリビング空間といった3つの機能を配置した〔写真5、図1〕。
〔写真1〕森林の中に3つのグランピングサイトを配置
3つのグランピングサイトを上空から見る。森林を背に、数メートル程度の間隔を置いて並ぶ。各サイトの寝室棟にそれぞれアイヌ語で愛称を付けた(写真:會澤高圧コンクリート)
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〔写真2〕ひし形文様の「nonno」
「アートとの共生」をテーマに、ひし形の植物文様や、アール・デコ調の幾何学的な文様を造形した(写真:會澤高圧コンクリート)
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〔写真3〕宇宙観を表した「sinta」
「宇宙との共生」をテーマに、古代神話の宇宙観を示すという卵形の寝室棟をつくった。建屋の形状そのものでテーマを表現した(写真:會澤高圧コンクリート)
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〔写真4〕大地の重厚感を表現した「nitay」
「自然との共生」をテーマに、大地の持つ重厚感を表現した。この造形は、発注者から特に高い評価を得たという(写真:會澤高圧コンクリート)
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〔写真5〕サイトにはリビングなどを併設
グランピングサイト全体の様子(写真:日経アーキテクチュア)
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寝室内部。数回宿泊してみた會澤高圧コンクリートの東大智執行役員は「快適に過ごせる」と太鼓判を押す(写真:船戸 俊一)
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〔図1〕サイト内の配置は共通
サイト内の配置は3つとも共通している。洗面室のある棟にはトイレ、シャワーを設置した。浴室は今後設置予定だ(資料:新冠開発共同企業体)
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このうち3Dプリンターで印刷したのは寝室棟の外壁と塀だ。3組の外壁と塀は、サイトごとに同じ文様をプリントして統一感を出した。寝室棟の最高高さは約3~4mで、延べ面積は10m2程度。中に入ると、家具はベッドだけ置かれていて、設備も空調機と照明のみというシンプルな構成だ。