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米国北東部にできた圧着端子メーカーの研究所では、「スウェール」と呼ぶ溝を敷地全体に巡らす。樹木が生育しやすい環境をつくり、起伏のある地形をはう樹状の建築とともに森の再生を図る。

北側から見下ろす。写真左手がエントランス。敷地全体に「スウェール」と呼ぶ砂利敷きの深い溝を14本巡らせた。といのない、傾斜した屋根から落ちる雨水は、スウェールを介して敷地全体に浸透する(写真:SHIMIZU NORTH AMERICA)
北側から見下ろす。写真左手がエントランス。敷地全体に「スウェール」と呼ぶ砂利敷きの深い溝を14本巡らせた。といのない、傾斜した屋根から落ちる雨水は、スウェールを介して敷地全体に浸透する(写真:SHIMIZU NORTH AMERICA)
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配置図
配置図
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 米国北東部、ペンシルベニア州ハリスバーグに開発された工業団地の一画に2021年9月、木造平屋建ての研究所が完成した。発注者は、圧着端子やコネクターなど電子接続部品を製造・販売する日系企業の現地法人。約5万1500m2の敷地はアパラチア山脈の一部、ブルーリッジ山脈内にあり、緩やかな起伏を持つ。

 設計は、芦澤竜一建築設計事務所(大阪市)が手掛けた。同社主宰の芦澤竜一氏は、「クライアントと一緒に初めて敷地を訪れたのが2010年。一帯は森の木を伐採して整備されており、転圧された土地は乾燥し、雨水は傾斜のある敷地の表面を流れるだけの状態だった」と振り返る。

 芦澤氏は、建築物を建てながらかつての自然環境を再生していくことができないかと考えた。そこで起伏のある敷地全体に配置したのが「スウェール」だ。同氏によると、スウェールとは等高線に沿って同じ深さに掘った溝のこと。スウェールによって雨水は地中深く浸透し、樹木が生育しやすい環境となる。

 建物はスウェールの上に、木が土地に根を張るように分岐して立つ。建物も敷地の水循環を促す存在となるように、深い片持ち梁の軒にはといを設けていない。降り注いだ雨は傾斜のある屋根から落ち、スウェールを介して敷地全体に水を行き渡らせる。スウェールの位置は、雨水が落ちた所に来るように調整しながら決めていった〔写真1、2〕。

〔写真1〕建物の隙間に延びる庭
〔写真1〕建物の隙間に延びる庭
WING Cとギャラリーの間の中庭。樹状の平面プランは様々な形状の中庭を生み出した。大きく張り出す軒は、日射を適度に遮蔽する(写真:市川 かおり)
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〔写真2〕エントランスの軒からつらら
〔写真2〕エントランスの軒からつらら
北側エントランスを見る。屋根は溶融アルミ亜鉛合金めっき鋼板。立ち上がりに10cmピッチで直径3cmの穴を開けて、冬季につららができやすくしている(写真:SHIMIZU NORTH AMERICA)
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