江戸時代から大阪・御堂筋に店を構える大丸が、戦前に完成したW.M.ヴォーリズ設計の本館を建て替えた。御堂筋側外壁を元の位置のまま保存しつつ、内側をまるごと新築し、構造安全性を確保する離れ業だ。
大阪・御堂筋のシンボル的存在である大丸心斎橋店本館が、約3年9カ月に及ぶ建て替え工事を経て、9月20日にオープンした。ウイリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964年)が設計した外壁の一部を同位置で保存し、地下3階・地上11階建ての新本館を建設した〔写真1〕。解体に当たっては1254の内装パーツを保存。1階を中心に、装飾金物などを再利用している〔写真2〕。
〔写真1〕南北の4スパンまで保存 〔写真2〕装飾金物を再利用し、シャンデリアは復元大丸がこの地に店を開いたのは江戸中期の1726年に遡る。近代的な百貨店としてヴォーリズが最初に建てた木造洋館(1913年)は1920年に火事で焼失。その後、22年から33年まで、4期に分けて鉄筋コンクリート造の旧本館が建設された〔図1〕。45年3月の戦災で5階以上を焼失し、戦後の復旧で8階まで増築。その後も20回以上増築を繰り返してきた。
〔図1〕増築でも残ったオリジナル外壁を保存基本設計を手掛けた日建設計設計部門ダイレクターアーキテクトの岡田泰典氏は、「耐震補強も検討したが、売り場に耐震壁が大きく出る上、防災設備などの整備も難しかった」と振り返る。大丸松坂屋百貨店と親会社のJ.フロントリテイリングは、2015年7月に建て替えを発表した。
両社はヴォーリズ建築継承のため、学識経験者による保存検討委員会を組織し、基本設計中の15年から竣工直前の19年8月まで合計16回、保存や復元の方針を議論している。これを踏まえ、御堂筋側外壁と、これに続く南北4スパンの現地保存を決めた。1階が石、中間階がタイル、最上階が擬石張りの3層構成になったネオ・ゴシック様式で、ヴォーリズ設計の戦前の全体像をとどめ、歴史的価値が高いといわれる
工事では、保存外壁が自立するよう、いったん外周2ブロックを残して解体し、新本館の鉄骨を7階レベルまで組んでから、順次、保存外壁に接続する手順を踏んだ(外壁保存の詳細は「Pickup Detail」)。