森の図書館(神奈川県逗子市)
3万冊の本と暮らす家
読書空間を包む3次元曲面の大屋根 設計:三井嶺建築設計事務所 施工:大同工業
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約3万冊の蔵書と共に、快適に暮らすための家だ。生活の中心はリビングではなく、本の閲覧室。傾斜地に沿った階段状の空間に多様な読書スペースを設け、空間全体を包むようにスギ集成材の3次元曲面屋根を架けた。
編集者と文筆家である2人の住宅兼仕事場だ。建て主は「図書館の片隅で司書のように住みたい」と考えていた。ただし、本を書庫などに詰め込んで死蔵させるのではなく、全て背表紙が見える状態で並べ、いつでも読めるようにすることにこだわった。
設計は、三井嶺建築設計事務所(東京都渋谷区)を主宰する三井嶺氏に依頼した。三井氏は一般的なリビング・ダイニングを設けず、書架と大きなテーブルを備えた閲覧室を生活の中心に据える間取りを提案。部屋を動き回りながら本を探し、読書や仕事に没頭できる家を目指した。
敷地は駅からほど近い立地にありながら、北側に山が迫る緑豊かな場所だ。建物は傾斜地に沿った階段状の断面形状で、接道する地下1階の玄関から階段を上がると、地上1階の閲覧室、2階の書斎、ロフトが吹き抜けを介してつながる〔写真1~4〕。
〔写真1〕曲面の屋根に包まれた読書空間
ロフトから地上2階の書斎と地上1階の閲覧室(右奥)を見下ろす。吹き抜けのある空間に、3次元曲面の屋根を架けた。屋根に2カ所のスリット窓を設けた(写真:吉田 誠)
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〔写真2〕森を背負う山裾の敷地
南側の外観。傾斜地の敷地で、接道している正面部分が地下1階。木造在来工法(地上)の構造躯体は、書架の荷重に合わせて太くしている(写真:三井嶺建築設計事務所)
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〔写真3〕生活の中心に据えた閲覧室
地上1階の閲覧室。左奥の柱は、北山スギの磨き丸太。部屋ごとに壁の色を変えた。閲覧室と書斎は「近世の博物学者の書斎をイメージした」(建て主)という緑色に塗装(写真:吉田 誠)
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〔写真4〕九州大学の歴史的什器を設置
地上1階の書架1と閲覧室を見通す。右手と左奥の書架および閲覧室の大テーブルは、かつて九州大学で使われていた古い什器。ナラの無垢材でつくられた重厚なもので、クレーンで吊って搬入した(写真:吉田 誠)
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階段室にも書架を並べ、階段の側壁には柱間を利用した書架も設けた。寝室とキッチン、水回りは、地上1~2階の北側にまとめた〔写真5、6〕。
〔写真5〕キッチンは閲覧室の脇に
地上1階のキッチンから閲覧室を見通す。閲覧室の大テーブルに美術書を広げ、原稿を書き、食事もする。キッチンは引き戸で閉め切ることができる。壁は水色に塗装(写真:吉田 誠)
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〔写真6〕山の緑を望む寝室
地上2階の寝室には書架を置かず、ゆっくり眠れる空間にした。東側の窓からは山の木々が見える。左手壁の白い扉を開けると窓がある。壁はピンクに塗装(写真:吉田 誠)
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日光で本が傷むのを防ぐため、開口部は最小限にとどめた。一部の窓は内側に鎧戸や扉を設けて採光をコントロールできるようにしている。建て主の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)を尊重する空間にしたい」という要望に応えた。