治療院を併設する地上2階建ての住宅だ。設計者は、多数の店舗設計で知られるスキーマ建築計画(東京都渋谷区)である。建て主への提案は、簡素なしつらえの家を住みながら変えていく「ゴールがないデザイン」だった。
東京都の西南部に位置する「多摩ニュータウン」。そこの住宅群の一角に立つ家である。建て主(取口さん)は、スキーマ建築計画の長坂常代表取締役が内装設計した化粧品店「Aesop(イソップ) 青山店」の建築に感銘を受け、自宅の設計を依頼した。
過去には自身が営む治療院の内装を長坂氏に頼んだことがあったが、そのときは諸事情で実現しなかった。だが2018年、治療院併設の自宅を建築することになり希望がかなった。
変化の余地を「設計」する
建て主の要望は、家族構成の変化や事業の拡大に追従できる建物の可変性だった。それに対する長坂氏の提案は、あらかじめ3層分のボリュームをつくっておき、地上2階にあるリビング・ダイニングを2層分の気積とすることだった。屋上のバルコニーに続く階段を上った先に床を増設すれば、3層に改築できるプランだ〔写真1〕。将来の増改築を想定した結果、「天井が高い不思議なスケール感になっている」と長坂氏は語る。
内装は柱や梁を現しとし、電気の配線もむき出しにしている。これは「以前手掛けた分離発注の住宅構成をヒントにした」(長坂氏)。建設の工種を独立させたうえで隠さず見せることで、今後の増築をセルフビルドでも実施しやすくした。「住み手が能動的に家を変えていくことで生活を楽しむ。それを応援する仕掛けを用意した」と長坂氏は明かす。
木造の梁や柱を露出させ、壁も合板仕上げにすると室内の雰囲気は単調になる。そこで同じ大きさのサッシの位置をずらし、多摩ニュータウンの風景を様々な高さから切り取って見せている。「ありきたりな窓からの眺めが面白くなった」(長坂氏)〔写真2〕。