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東京都江戸川区の住宅街に立つ、木造賃貸アパートの建て替えだ。住戸数をなるべく多く確保しつつ、地上には私道の「みち」を設けた。小道に面する住戸は1階を店舗としても利用できるようにし、副業や起業を支援する。

 最寄り駅から徒歩10分の敷地は、商業地と住宅地の境目に位置する。そこに立っていた2棟の共同住宅のうち、築40年を超える木賃アパートの方を建て替えるプロジェクトである。駐車場だった場所を含めて、地上3階建ての木造長屋2棟(A棟、B棟)を新築した。地上3階建ての既存の共同住宅(C棟)は残し、現在も随時改修中だ〔写真1〕。

〔写真1〕交流の場になる「みち」
〔写真1〕交流の場になる「みち」
建物の配置を工夫して窓先空地を活用し、敷地内に私道の「みち」をつくった。ここに面する住戸兼店舗の屋外テラスにもなっている(写真:平井 広行)
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 C棟を含む3棟の窓先空地は誰でも通れる「みち」とし、開放した〔図1〕。東西を貫く道が近くになかったので、竣工から約2年たった今はすっかり、街区の歩行者空間として定着した。住人にとっては屋外テラスとしてのくつろぎの場でもある〔写真2~4〕。

〔図1〕「みち」を生み出す敷地計画
〔図1〕「みち」を生み出す敷地計画
建て替え前は、地上3階建ての共同住宅と築40年以上の賃貸アパートが立っていた。賃貸アパートは解体し、駐車場だった場所を含めて2棟(A棟、B棟)の長屋を新築。駐車場はなくし、街区の東西を貫く「みち」をつくって開放した
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配置図
配置図
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〔写真2〕楽しみ方を提案したバーベキュー
〔写真2〕楽しみ方を提案したバーベキュー
B棟の竣工後、建て主と設計者が企画したバーベキュー。「みち」の使い方を示し、住人や地域住民のコミュニティー形成につなげた(写真:ビーフンデザイン)
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〔写真3〕回遊性を高める動線をデザイン
〔写真3〕回遊性を高める動線をデザイン
南北に長い街区で、東西を結ぶ動線を計画した。舗装はウッドデッキやタイル張りとし、人の滞留時間が長くなる設えとした(写真:平井 広行)
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〔写真4〕住人は屋外テラスとして使える
〔写真4〕住人は屋外テラスとして使える
建て主の許可を得れば、「みち」にはテーブルや椅子などを置ける。屋外テラスとしても様々な使い方ができる(写真:平井 広行)
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 「都内は車の所有者が少なく、駐車場はニーズに合わない。むしろ地域の顔になるような場を敷地に設け、新しい空間の使い方を提示したかった」。設計したビーフンデザイン(東京都渋谷区)の進藤強代表はこう語る。