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シェアオフィス・キッチンを併設した集合住宅だ。狭小地の多層住宅に強い住宅会社に加えて、“シェア”について共に研究していた建て主と設計者の3者がタッグを組み、時代に合った職住近接の暮らしを模索した。

 工業化住宅の構法をベースとした住宅設計に設計事務所が参画することで、建て主が望んだ「地域に開く」集合住宅が実現した。東京スカイツリーのお膝元に立つ、5階建ての「押上のビル PLAT295」(東京都墨田区)がその住宅だ。2020年4月に竣工した〔写真12〕。

〔写真1〕大開口で街に開く外観
〔写真1〕大開口で街に開く外観
北側外観。5階建ての1、2階にシェアオフィスが入る。吹き抜け部の大開口を介して、道路からも内部の様子がよく見える(写真:浅田 美浩)
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〔写真2〕用途の違いが表れた立面
〔写真2〕用途の違いが表れた立面
路地に面した西側外観。外壁は光触媒タイルを用いている。パナソニックホームズの構法の仕様で、使えるタイルの種類は限られている。その中で、シェア部分を白色、住居部分を黒色に貼り分けるほか、開口部を白色で縁取るなど、貼り方を工夫した(写真:浅田 美浩)
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 建て主は、まちづくりのコンサルティングなどを手掛けるバルーン(墨田区)。アーバンデザイナーの鈴木亮平、鈴木すみれ夫妻が主宰している。敷地には、亮平氏の祖父母が暮らした築60年超の木造住宅と、老朽化した5階建ての建物が立っていた。鈴木夫妻は数年前にその家を改修して住み始めたが、祖父母の介護施設入所をきっかけに、2棟をまとめて建て替えることとなった。

 建て替えに当たり、鈴木夫妻は「建物を所有者だけが専有するのではなく、地域に開いた場所にしたい」という思いを持っていた。敷地が狭小であることなどから、まずパナソニックホームズ(大阪府豊中市)の重量鉄骨造「Vieuno(ビューノ)」で建てることを決めた。敷地は間口約5mのうなぎの寝床形状。同社の無足場構法であれば敷地を最大限活用できること、工期が実質8カ月程度と短いことが決め手となった〔写真3〕。

〔写真3〕無足場工法で狭い間口を克服
〔写真3〕無足場工法で狭い間口を克服
施工の様子。敷地の間口が約5mと狭いため、足場なしで施工できる工法を採用した。重機を敷地内に入れ、敷地境界から有効寸法で300mm以上の引きがあれば施工が可能(写真:パナソニックホームズ)
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 一方で、地域に開く建物とするためにシェア空間を入れたいと考え、住宅会社だけでなく、ツバメアーキテクツ(東京都新宿区)にも共同設計を依頼した。プレハブ構法の利点を生かしつつ、これからの時代に合ったシェア空間を一緒につくりたいと考えたからだ。亮平氏と、同社の山道拓人代表は、住総研において“シェア”を研究する委員会に参加し、共に活動している縁もあった。