築35年の賃貸マンションが富裕層向けの分譲マンションに生まれ変わった。野村不動産がタイル張りの既存棟を改修保存しつつ、ガラス張りの増築棟を新設。新築同等の「価値」を持つ超高級マンションに再生した。
曲面状の外観にタイルを施した既存棟と、ガラス張りの増築棟が木々の奥に並び立つ。2020年2月、東京都渋谷区の閑静な住宅街に、「プラウド上原フォレスト」が完成した。
1984年に竣工した高級賃貸マンション「エリーゼアパートメント」を野村不動産が取得。既存の建物を改修し、隣の増築棟と合わせて15戸が入る、地下1階・地上3階建ての分譲マンションにした〔写真1〕。住戸面積は147m2~232m2。最低価格が2億円台、最高は5億円を超える。3月時点で約半数を販売している。
建て替えから「保存再生」へ
「既存棟を残し、増築棟と組み合わせて分譲マンションに改修したのは我々が知る限り、国内初だ。風合いのある建物や既存の樹木など、新築にはない魅力を生み出せた」。野村不動産住宅事業本部の沖村秀雄・事業推進一部副部長兼推進一課長はこう語る〔写真2~4〕。改修・増築の設計・施工は、竹中工務店が担当した。
野村不動産は建て替えるつもりで土地と建物を購入した。だが調べてみると建物はまだ十分に使用でき、内外装材の質も良い。そこで既存建物を生かす方針に切り替えた。
既存棟は外装材やエントランスの内装材、照明などをできるだけ保存。機能や耐震、断熱などの性能は現在求められる水準まで高めた〔図1〕。
一方、旧マンションに住んでいた元オーナーの庭だった敷地に新設した増築棟は、道路に面した東側全面をガラスで覆った。「既存棟に合わせた意匠も検討したが、素材やディテールを再現するのは難しかった。対照的なデザインにすることで、新旧を互いに引き立たせた」(竹中工務店の齋藤亮太・東京本店設計部設計第5部門設計2グループ副部長)
約40畳のリビング・ダイニングは、鉄筋コンクリート(RC)造の柱の間に細い鉄骨造の円柱を配し、視覚的な広がりを確保した。