house/studio H(京都市)
佳景をめでるL字形庵
自然を大開口で室内に取り込み、小窓で切り取る 設計:木村松本建築設計事務所 施工:いまむら工務店
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京都駅から数キロメートル離れた静かな山間に立つ住宅兼スタジオだ。建て主は、周辺の自然を楽しむための、多様な居場所を求めた。設計者は、2mグリッドの細長いL字平面と、床や天井の高さを違えた空間で応えた。
「建物が生きているようだ!」。グラフィックデザイナーの建て主は、木村松本建築設計事務所(京都市)が設計したショップやカフェを併設した住宅「house A/shop B」
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を見たときの感動をそう説明する。「完成後に変化していく建物の“物語”を住まい手がつくる可能性を感じた」と言う。自らも、暮らしの変化に対応できる建物を望んだ。喧噪(けんそう)から離れて自然を楽しむ、庵のような住まいだ。
2mグリッドでつくる骨組み
敷地の南側にある急斜面にはタケやモミジがうっそうと生い茂る。ここに住宅を建てるに当たって、建て主が最初に示したキーワードは「ジャーニー(旅)」。豊かな外部環境を内部に取り込み、時間や季節ごとに変容する空間体験に期待を込めた。
設計を手掛けた木村松本建築設計事務所が示した案は、屋外に接する面を大きくする細長いL字形の平面と縦長の断面を組み合わせたものだ〔写真1~5〕。「周辺環境と建て主が理想とするライフスタイルがうまく融合する“骨組み”をまず考えた」と、同事務所の木村吉成共同代表は説明する。骨組みとはグリッドを基本とする空間構成のことで、明快な構造形式と合わせて決めるのが同事務所のスタイルだ。
〔写真1〕GL-250の床から竹林を望む
南の竹林に面したリビング。450mmのレベル差をつけた2つの床がある。建て主は、ここからバードウオッチングを楽しんでいるという。階段の1段目の踏み板を机としても利用しており、自由な使い方がうかがえる(写真:生田 将人)
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〔写真2〕竹林に面した開放的なL字プラン
南側外観。南側と西側に大きな開口部を設け、屋外の自然を室内に取り込んでいる。建設前の竹林は暗い印象だったが、建て主が自らの手で間伐し、程よく視線が抜ける環境をつくった(写真:生田 将人)
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〔写真3〕前面道路からは深い軒でエントランスに導く
北側外観。前面道路からのアプローチにはL字形に囲む位置に前庭を配置。建設の際に発生した土を敷地内でリユースし、前庭の築山をつくった。1階北側にあるワークスペースにも直接出入りできる(写真:生田 将人)
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〔写真4〕上下方向に視線の抜ける階段とL字形のホール
鉄製の階段は視線が抜けるしつらえ。2階からの光がこの吹き抜けを介して入る。西側の池などのランドスケープは、建て主も参加してつくった(写真:生田 将人)
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〔写真5〕周囲に開くワークスペースとホール
前面道路側にワークスペースを配し、エントランス扉を開くとホールにつながる。扉は繊維強化プラスチック(FRP)(写真:生田 将人)
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ワークスペースと水回りの界壁は繊維廃材のボード(写真:生田 将人)
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木村松本建築設計事務所では、グリッドの寸法を重視している。1.8mなど一般的なモジュールも検討した結果、ここでは2mグリッドがちょうど良いと判断した。おおらかな空間を確保するためだ。