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斜面地、しかも引き込み道路の突き当たりの短冊形という設計難度が高い敷地に対して、設計者は地形を生かした階段状の木造長屋を提案。さらに、「ロ準耐火建築物1号」とすることで、室内では木の現しを実現した。

 「西原の階段長屋」(東京都渋谷区)は、高齢の建て主夫妻の住まいと賃貸2住戸からなる地下1階・地上3階建ての長屋だ。斜面地に、3つの住戸のボリュームが階段状に連なり、高低差を生かしたルーフテラスや南向きの大きな窓から、どの住戸も日当たりの良さや眺望を享受できる〔写真12〕。

〔写真1〕地形に沿う階段状の建物
〔写真1〕地形に沿う階段状の建物
敷地南側から見下ろす。斜面地に3つの住戸が階段状に連なる。手前の2住戸は南側の坂道から、最上部のオーナー住戸は西側の私道からアプローチする(写真:吉田 誠)
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〔写真2〕外壁の張り方も工夫
〔写真2〕外壁の張り方も工夫
西側外観。アルミ亜鉛合金めっきカラー鋼板の外壁は、3つの住戸で異なる張り方にすることで、全体の一体感を出しつつ、各住戸に独立性を持たせた。左手奥がオーナー住戸の玄関(写真:中川 敦玲)
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 建て主は子どもの頃からこの地で育った。今回の敷地と西隣の敷地の2区画を所有し、これまで西隣の戸建て住宅に住んでいたが、ひな壇状の敷地に立つ家にアプローチする階段に不便を感じていた。そこで、今回の敷地に立っていた賃貸用戸建て住宅を、階段を昇降せずに暮らせ、かつ賃貸住戸を併設した住宅に建て替え、移り住むことにした。

 当初、住宅会社などに相談したが、提案されたのは傾斜地を平場に造成して建築する案ばかりだった。しかしそれでは、造成工事にコストがかかるうえ、慣れ親しんだ景観も失われる。もともとの地形を生かした建築にしたいと考え、知人の紹介で、近所に事務所を構えるインタースペース・アーキテクツ(東京都渋谷区)に相談した。

 同社の大河内学代表は、「設計の難度は高いが、敷地の個性と、日当たりや眺望に恵まれた南向き斜面地という好条件を生かした建築にしよう」と考えた。