Dear house(金沢市)
軒下トンネルで職住分節
ホームオフィスと子どもの遊び場が共存 設計:阿曽芙実建築設計事務所 施工:建匠
全1772文字
金沢市の郊外に立つ、アトリエ併設の住宅だ。辻に面する矩形(くけい)の敷地に対し、建物を斜めに配置。1階にはトンネルのような「軒下広場」を設けた。職住を分けつつ、半屋外の生活を楽しめる場所にした。
「日本海側は日照時間が短く、降雨量も多いので、家の中で過ごす時間が長い。暮らしを外に開く、半屋外の空間を提案したかった」。こう語るのは、阿曽芙実建築設計事務所(神戸市)の阿曽芙実代表だ。建築を学んだ大学時代からこの地域の住宅を調べ、「屋根のある中間領域が生活を豊かにする」との結論に至った。
メガホン状のトンネルを開く
建て主は夫婦と子ども2人の4人家族だ。デザイナーである妻のアトリエの併設を求めた。職住共存と半屋外の利用の検討を重ね、1階に「軒下広場」と呼ぶトンネル状の土間を設けた〔写真1〕。
〔写真1〕アトリエと住空間を軒下広場で緩やかにつなぐ
1階のリビングから軒下広場越しに、アトリエを見る。玄関からアトリエまでつながるような土間を設けた。正面の靴入れは、設計者の造作家具(写真:小川 重雄)
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敷地が角地のため前面道路の交通量の差を考慮し、車が多い西側からはアトリエに、少ない南側から住宅にアプローチすることにした〔写真2、図1〕。建物は敷地に対して、斜めに配置。1階を貫く広場の開口の高さや幅は、内側への日射などを計算し、南側にメガホン状に大きく開いた。
〔写真2〕角地を突き抜けるトンネル状の半屋外空間
敷地内を貫通する1階の軒下広場は、南側に向けて大きく開いた。トンネルの家型の頂点は、高さ2550mm~3350mmに傾斜し、幅は854mm~3426mm。右側に飛び出た小さな家型のボリュームは階段室。突き出すことで地震力を負担する(写真:小川 重雄)
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〔図1〕アトリエと住居に2方向からアクセスできる
写真は南側からの俯瞰。2つある前面道路の交通量の差を考慮し、車が少ない南側に住宅のアプローチを設け、軒下広場も南側に大きく開いた(写真:小川 重雄)
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「広場で遊ぶ子どもたちの姿をリビングやアトリエから見られる」と、夫妻は口をそろえる。広場に面する大開口の木製建具は、トリプルLow-Eガラスをはめ、内と外の視線はつながるが、断熱性能は高い仕様だ〔写真3、4〕。
〔写真3〕開口の断熱性能を高めて内と外をつなぐ
軒下広場に面する木製建具は視線を通すが、トリプルのLow-Eガラスを採用して断熱性能を高めた。壁面には高性能グラスウールなどを用いている。冬でも1階の温水床暖房だけで過ごせているという(写真:小川 重雄)
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〔写真4〕家と地域の中間領域にもなる軒下広場
2つの前面道路に通じる軒下広場が、アトリエ(左)とリビング(右)を緩やかに分節する。夏は子ども用のプールを置き、プライベートな遊び場として楽しむ。冬は雪だるまやクリスマスツリーを飾り、道行く人も見られるディスプレー空間としても活用している。玄関と広場、アトリエは下足で使用する(写真:小川 重雄)
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広場はクリスマスツリーを置くなど、内外から眺められるディスプレー空間になる。カフェと間違えて広場に入ってくる人がいるほど、開放的な空間に建て主は満足している。