2棟の家が並んでいるように見えるが、実は奥でつながった1棟の2世帯住宅だ。共用の前庭を挟んだ配置計画にすることで、兄と妹の2世帯の家族が快適に暮らせる適度な距離感と、風や光の抜けを生み出した。
戦前に開発された郊外の住宅地。近隣がマンションや、土地を細分化した小規模戸建てに建て替わるなか、兄妹は母が所有する築80年超の一軒家を、兄夫妻と妹夫妻・長男の5人で住む2世帯住宅に建て替えるという選択をした。
旧宅は、空き家の期間を経て、妹家族が27年ほど暮らしていたが、雨漏りなどの老朽化に悩まされていた。
兄が、定年退職を機に家で仕事ができる環境を求めていたことをきっかけに、同居と建て替えを決めた。
風の通り道は地域にも貢献
兄妹とはいえ、離れて暮らしていた2家族が納得する家の設計は難しい。複数の設計者の提案を検討した後に選ばれたのは、鈴木淳史建築設計事務所(東京都新宿区)だ。
同社の鈴木淳史代表は、家族の適度な距離感と、風通しの良さ、という両家族の要望を踏まえ、共用の前庭を挟んで2世帯の主要な生活領域を振り分ける配置を提案。このアイデアが高く評価された。
敷地を貫通するように、アプローチの階段から前庭、玄関、後庭までつなげて配置した。玄関戸や窓を開けると前面道路から隣地のマンションの緑地帯まで風が抜ける通り道になる〔写真1、2〕。
風の通り道によって2棟に分割し、近隣への圧迫感を抑える配慮もある。鈴木代表は、「風が抜ける空間があることは、家族はもちろん、地域の環境にも貢献する」と狙いを語る。
主に東側が妹家族、西側が兄家族と振り分けられた2世帯の生活空間は、この共用スペースによって適度な距離感を保ちつつ、1階にある共用の和室、2階のデッキテラスを介してつながり、自由に行き来ができる〔写真3~5〕。