東南アジアに日本の木造住宅を輸出するプロジェクトが本格スタートを切った。林業で栄えた奈良県の山村から、スギ材をタイの住宅市場に供給。日本の在来木造工法をタイ人に伝え、熱帯の気候に合った家づくりを目指す。
奈良県の最東部、三重県との境に位置する御杖(みつえ)村。ここで現在、多くの建築関係者や建材メーカーを巻き込んだプロジェクトが進行中だ。タイに日本式の木造住宅を建てるため、木材を輸出しようというのだ。日本の在来木造工法をタイ人に伝え、日本人が培ってきた木造技術で家をつくれるようにする。そのモデルハウスが2019年8月に完成した〔写真1、2〕。
御杖村には多くのスギが生えている。林業が盛んだったが村民の高齢化が進み、現在は衰退している。
名産のスギを活用し、村を再生できないか。相談を受けた椙山(すぎやま)女学園大学(名古屋市)の村上心(しん)生活科学部生活環境デザイン学科教授らは、木材の輸出を提案。村上教授は東南アジアの住宅事情を研究していた。そこにヒントを見いだし、タイに日本の木造住宅を普及させるプランを提案。御杖村が賛同し、産地直送構想が18年に動き出した〔図1、2〕。
プロジェクト実施主体 | 御杖村役場 伊藤収宜村長、仲子雄史むらづくり振興課主幹 | プロジェクト統括 | 椙山女学園大学 村上心教授 |
建築計画監修 | 首都大学東京元教授、青木茂建築工房 青木茂代表 |
現地協力・建築計画 | Sripatum大学 Nattawut Usavagovitwong教授 |
現地協力・建築計画 | Chulalongkorn大学 Terdsak Tachakitkachorn教授 |
現地協力・プロジェクト補佐 | ディーサワット JIRACHAI TANGKIJNGAMWONG |
実施設計・施工 | 太平洋設計事務所 橋爪洋司代表取締役 |
現地設計・施工協力 | ON GROUND 岩本昌樹 |
建築計画・プロジェクト補佐 | 椙山女学園大学 川口香子助教 |
構造計画 | 椙山女学園大学 清水秀丸講師 |
耐久性計画 | 大阪市立大学 石山央樹准教授 |
環境・設備計画 | 早稲田大学 高口洋人教授 |
環境・設備計画、統括補佐 | 早稲田大学客員准教授、アルキテック 脇田健裕代表 |
インテリアデザイン | 琉球大学 入江徹准教授 |
インテリアデザイン | シアター建設 森本悠義 |
なぜタイか。そこには意外な住宅事情があった。熱帯のタイには木材が豊富にあるように思えるが、住宅に使える木材が不足している。森はタイの国境付近に広がっており、国家戦略上、この地域での伐採は制限されている。加えて、木造住宅はシロアリの被害に遭いやすい。堅いチーク材は枯渇し、計画植林をしてこなかったせいで手に入りにくい。