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数多くの住宅を設計してきた千葉学氏が、長く離れていた実家を、高齢の父親と同居する家に建て替えた。親子の距離感を模索した設計は、完全分離型2世帯住宅から始まり、遠近を調整できる同居タイプに帰着した。

 2021年夏、建築家の千葉学氏(東京大学大学院教授)は、高齢の父親と2人暮らしを始めた。30年以上、離れていた東京都世田谷区にある実家を、自らの設計で、父と同居する家に建て替えた。「僕自身は、この場所に執着もなかったから、まさか戻ることになるとは思いもしなかった。母が亡くなり、1人暮らしになった父を放っておけなくなり、建て替えを決断した。父がいたからこそ、こういう建て方になった」。そう話す千葉氏は、この家を「父の家」と名付けた。

気配を伝える3つの吹き抜け

 前面道路から3mほど後退して立つ建物は、切妻屋根が載る木造2階建て〔写真1〕。玄関を入ると、屋外から段差なくコンクリート土間で仕上げた、ほぼワンルームの空間が広がる。バリアフリーに配慮した設えとし、1階だけで父が日常生活を送れるようにした〔写真2〕。

〔写真1〕両隣の日当たりを確保する
〔写真1〕両隣の日当たりを確保する
住宅地を縫う細い道路に面した北西向きの正面外観。隣家の日当たりを阻害しないように、両隣に向けて軒を下ろす切妻屋根の妻入りとした(写真:吉田 誠)
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〔写真2〕コンクリート土間のワンルーム
〔写真2〕コンクリート土間のワンルーム
1階は父が生活するほぼワンルームの空間。外部から段差なく続くコンクリートの土間には床暖房を入れている。写真奥は寝室部分。吹き抜けから見える2階は、千葉氏の生活空間(写真:吉田 誠)
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 千葉氏の生活空間は主に2階だ。1階と同じくほぼワンルームで、天井が屋根なりの気積の大きい空間に、ハイサイドライトから自然光が入る。

 「親子それぞれが生活する空間をワンルームにして上下に重ね、3つの吹き抜けでつなげた。このプランならば、相手がいるのか、いないのかはすぐに分かる。その半面、相手が何をしているのかは全く気にならない距離感だ」

 そう話す千葉氏だが、このプランに行き着くまでの道は長かった。当初は、完全分離型の2世帯住宅で設計していたという。案を練っては父の意見を尋ね、その言葉の真意にも思いを巡らせて検討を重ねるうちに全く違うプランに変わっていった。

 たどり着いたのが、空間を共有しながらも、互いのプライバシーや生活のリズムを守ることのできるこのプランだ(経緯は「インタビュー」参照)。