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地域の洪水ハザードマップを手掛かりにしながら、高さ1.2mの基礎の上に建てた、水害に備える川辺の住宅である。冬の車のアクセスや除雪も考慮した高床式の家屋形状は、この敷地で安全に暮らすための工夫だ。

 曹洞宗大本山の永平寺がある福井県永平寺町は、九頭竜(くずりゅう)川の河岸段丘の上に栄えたかつての門前町である。だが最近は丘よりもずっと低い川沿いまで、住宅地が広がっている。川辺に立つ地上2階建ての住宅「Silver Water Cabin」の敷地もまた、洪水時には1~2mの浸水が想定される区域に位置している。

 敷地選びから関わってきたという、設計者ユニットEureka(エウレカ)共同主宰の稲垣淳哉氏は、「建て主は医療従事者だった。積雪期にも車ですぐ病院に行けることを最優先し、融雪道路に近い川辺の場所を選んだ。それでも安全・安心に暮らせる住宅を考え抜いた」と話す。

 具体的には、敷地の南にある道路側に住宅を配置し、ピロティを駐車場にして水害と積雪という課題を同時に克服しようとしている。1階の床は地盤から1.2mの高さにして洪水に備え、かつ2mの浸水があっても2階は安全を確保できる設計になっている。駐車スペースには柱が出ないよう、西側はトラス状の構造を採用して耐震要素とした。トラスは構造だけに使うのではなく、落雪を促す傾斜屋根を延ばして「リビングアーケード」と呼ぶ通路にしている〔写真12〕。

〔写真1〕木造ピロティで柱がない駐車場
〔写真1〕木造ピロティで柱がない駐車場
幅が約6mある無柱の駐車場を木造で実現した。張り出し部分の壁内にブレースを入れ、左右のコーナーの柱が出ないように固めている。3Dフルモデルの構造解析を行った(写真:大倉 英揮)
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〔写真2〕敷地から約50mしか離れていない川の氾濫に備える
〔写真2〕敷地から約50mしか離れていない川の氾濫に備える
高速道路や冬の融雪道路に近い川辺の立地を、建て主はあえて選んだ。その場所は洪水ハザードマップを見ると1~2mの浸水想定区域に当たるため、高床式を採用した(写真:大倉 英揮)
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