崩壊が進む世界文化遺産・軍艦島。襲来する台風と加速する老朽化に、どのように立ち向かえばいいのか。軍艦島の保存に携わってきた筆者が島の現状を報告するとともに、遺構を未来へ引き継ぐための保存の在り方について述べる。
軍艦島で崩壊へのカウントダウンが始まった──。2020年3月、世界文化遺産・軍艦島(正式名:端島)にある日本最古の鉄筋コンクリート(RC)造アパート「30号棟」(1916年建設)の一部が突然崩落した。2020年6月には大雨の影響で別の箇所が崩落。同年9月の台風で崩落箇所はさらに拡大した〔写真1〕。
軍艦島は、長崎港から南西に約17.5kmの外洋に位置する〔図1〕。大きさは南北約480m、東西約160mである。かつて海底炭鉱により栄え、最盛期の1960年代には人口が約5300人となり、人口密度は世界一となった。その後、74年の閉山に伴い無人島になって現在に至る。
2015年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の1つとして登録された。上陸観光ツアーが行われ、17年度には約29万人が上陸。文化財としてだけなく、観光資源としても注目されている。
軍艦島は、もともと岩礁から成る小さな島だったが、繁栄とともに周囲を6回にわたって埋め立て、島と護岸が拡張されてきた。現在の姿が形成されたのは1931年である。島の中央部の南北に延びる山は埋め立て前の岩礁で、その東側と南側には炭鉱関連施設、北側と西側および山頂には居住施設がある〔図2〕。
島の周囲には長さ約1.2km、高さ10m以上の城壁のような護岸が構築されている。それでも、大時化(しけ)の際には、護岸をはるかに超える高潮に襲われ、波は7階建ての建物すら乗り越えるという〔写真2〕。