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避難❷
煙高さ判定法(ルートB2)

(イラスト:宮沢 洋)
(イラスト:宮沢 洋)

 今回の改正施行令で「区画避難安全検証法」が追加されたことと連動し、新たな算定方法「煙高さ判定法(ルートB2)」が告示で示された。避難完了時点の煙層の下端高さが「床面から1.8m以上」であるかどうかを確認する。既存の「避難時間判定法(ルートB1)」では厳しい評価になっていた100m2以下の居室や、在館者の多い劇場などでも検証できる。

 ルートB1との最大の違いは、火災規模と避難行動に関する考え方の2点。いずれもルートB1では計算を簡易にするために単純なモデルとしているが、ルートB2では実態に合わせた精緻なものとした〔図3〕。

〔図3〕「火災規模」と「避難行動」の考え方の違いがポイント
〔図3〕「火災規模」と「避難行動」の考え方の違いがポイント
既存の「避難時間判定法」と新たな「煙高さ判定法」の主項目の比較。新たな判定法では、火災が徐々に拡大していく精緻なモデルを採用している。避難行動もより実態に沿った評価ができる。保育・福祉施設にも適用でき、スプリンクラーの設置効果も見込めるようになった(資料:国土交通省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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大臣認定の実績踏まえ告示化

 国交省が1月28日に示した告示案によると、居室避難の計算ではまず、避難完了時間を計算する。この時間に対し、火源の発熱速度に応じた煙の上昇温度を求める。一定基準を満たしていれば、居室を出るまでの間に煙がどれだけ発生し、どこまで降下するかの計算に進む。この煙層の下端高さが床面から1.8m以上であれば検証は完了だ〔図4〕。同じ要領で廊下避難も計算する。

〔図4〕ルートB2の計算フロー
〔図4〕ルートB2の計算フロー
煙高さ判定法を用いた居室避難の計算フローのイメージ。判定基準は、避難完了時点の煙高さが「床面から1.8m以上」であることだ。居室避難について計算した後に、廊下避難についても同様のフローで確認していく(資料:国土交通省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 国交省建築指導課の渡辺峰樹企画専門官は、ルートB2新設の背景を、こう説明する。「大臣認定で使われてきた算定方法が煙高さ判定法だ。実績が積まれたため、告示として一般化した」

選択肢の増大で設計に自由度

 区画避難安全検証法と煙高さ判定法の追加によって、性能設計の幅が格段に広がった〔図5〕。後者の判定法は、同一階での併用はできないが、異なる階での使い分けは可能だ。

〔図5〕避難安全検証法の選択肢が大幅増
〔図5〕避難安全検証法の選択肢が大幅増
上は、避難安全検証法の体系イメージ。検証単位と判定法の組み合わせのパターンが一気に増大した。下は、その組み合わせの一例。鹿島の井田卓造技師長は、「施行令129条2の2による『別の建築物とみなす部分』を用いることでさらに可能性が広がる」と話す(資料:鹿島)
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 鹿島建築設計本部の井田卓造技師長は、こう語る。「検証単位や判定法の組み合わせのパターンが劇的に増え、従来のように解けるか否かではなく、設計が上手か下手かの世界に変わった。これは、デザインや使い勝手に直結する。最初は手間を要するが、取り組む価値は十分ある」

 既に、新たな算定方法でシミュレーションした例もある。例えば大林組は、区画避難をルートB2で検証。100m2以下の空間でも、木を内装材に採用できることを確認した〔図6〕。

〔図6〕ルートB2なら小規模居室も検証できる
〔図6〕ルートB2なら小規模居室も検証できる
大林組が実施したシミュレーション例。既に大臣認定を取得して進める自社プロジェクトを用いて、区画避難を煙高さ判定法で検証した。計算した結果、要求性能を満たし、内装制限の規定を適用せずに済むことが確認できた(資料:大林組)
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 同社技術研究所都市環境技術研究部の山口純一主任研究員は、「コミュニケーションの誘発がテーマのオフィスなどで、内部階段を設ける提案が増えた。そうした際、ルートB2で全館避難を検証すると、階段周りの前室をなくせる。よりオープンな空間が可能になった」と話す。

 設計の自由度が高まる一方で、課題を指摘する声もある。明野設備研究所の中島秀男代表は、「建物の性能を維持するためには、設計時に根拠とした仕様や考え方を運営者に正しく伝達する必要がある。そのための仕組みづくりが重要だ」と話す。