意匠権侵害には差し止め請求も
4月1日に改正意匠法が施行され、意匠登録制度に新たに「建築物」「内装」が加わった。制度は特許庁が所管し、出願を受け付ける。審査に当たるのは審査第一部意匠課だ。
この制度は「創作者」の権利(意匠権)を守るもので、共同創作という形を採ることもできる。また確立した権利は譲渡できる。権利者はその意匠を独占的に事業化することができ、模倣行為に対しては差し止め請求や刑事告訴などが行える。
発注者の意向を受けてデザインを実施した場合、誰が権利者となるかなどの取り扱いは事前に協議しておく必要がある〔図4〕。
対象となるのは視覚に訴えるデザインだ。建築物の造形、「統一的な美感を起こさせる」内装のデザインが対象となる。内装の場合、一般的な物品(本棚など)が使われていても、配置計画などに独自性があれば登録可能とされる。
出願できる対象は全体の造形だけとは限らない。外壁や内装に描くマークやイラスト、床の模様などといった部分的な出願も可能だ。プロジェクションマッピングによって投影する模様などもこれに含まれる。また「組み物の意匠」として、敷地内に点在する建物に共通したデザイン上の特徴を登録することもできる。
これらは出願書と図面で表現する必要があり、特許庁は出願手続きに関する手引書を3月末に公開した〔図5〕。同庁は審査基準も公開しており、審査の各段階で何を行うかも明らかにしている。各出願が手続きを守っているかを確認する方式審査の後、「先行意匠」と比べて登録に値するかを実体審査する手順となる〔図6〕。
いったん「拒絶通知」を受けた後も、出願内容を補正すれば登録が認められることもある。これらのやり取りは物品における意匠登録や特許など、他の出願手続きと同様だ。
「新規性」などで可否を判断
審査ポイントとして特許庁が挙げているのが、新規性、創作非容易性といった6つの項目だ〔図7〕。
審査ポイント | 主な審査内容 |
一意匠一出願 | 1つの意匠ごとに出願する手続きがが守られていること(部分での出願、組み物の出願も可能) |
工業上利用できる 意匠であること |
意匠を構成するものであること、意匠が具体的なものであること、意匠が工業上利用できるものであること |
新規性 | 公知の意匠と同一または類似の意匠となっていないこと(世界で最も新しい意匠かを特許庁が「類否判断」) |
創作非容易性 | 公知の意匠から容易に創作できた意匠でないこと(構成要素を置き換えただけの意匠、複数の意匠を寄せ集めただけの意匠ではない必要がある) |
先願 | 同一または類似の意匠について最も早い出願であること |
不登録事由 | 公序良俗、必然的形状などに該当しないこと |
特に新規性について、特許庁は出版物やウェブサイト情報などを独自に収集しており、そうした資料と突き合わせたうえで判断するという。
どのような建物にこの制度は適用できるのか、特許庁に取材したところ、意外に適用範囲は広いことが分かってきた。例えば「工場の生産ラインなども、『人が一定時間を過ごす場所』と見なせれば、内装の意匠として出願できる」(意匠課意匠審査基準室)という〔図8〕。
意匠登録された内容は官報へ掲載され、その後、特許庁のウェブサイトで検索が可能になる。法律上、設計行為だけなら権利侵害には当たらないが、建築行為は実施権の侵害に当たる。登録数が増えてくれば、設計段階で他者の登録の内容チェックは欠かせなくなる。