
佐藤さんとは、豪州シドニーで計画が進む高さ58mのパブリックアート「Cloud Arch」(2020年以降)や、曲率と荷重配分をコントロールした曲面状ガラス壁による構造を採用したオランダの「Park Groot Vijversburg」(17年)など、挑戦的な構造の実現で協働してきました。
佐藤さんのすごさは、フレキシビリティーの高さにあります。「構造はこうあるべきだ」という考えにとらわれず、予算など現実的な制約を前提に、「どうやれば課題が解決できるか」を常に考えているのです。
オランダの建物は公園内にあるビジターセンターで、景観を阻害しないために透明材料を活用した施設を考えていました。柱や梁を使うと、スパンを大きく取ったとしても建築的になってしまう。柱を無くす構造の実現を考えるうち、ガラス壁にたどり着きました。曲面状ガラスの壁の構造は、薄板に曲率を与えると鉛直方向の圧縮荷重に強くなる原理を応用したものです。
ガラス壁構造体の構造計算をオランダ人の構造設計者に依頼したのですが、実現可能な形状を見つけることはできませんでした。円形など、曲率が均等な設計ならば鉛直荷重の計算は単純ですが、ランドスケープに合わせてガラス面の曲率が異なっていました。そこで佐藤さんに構造計算を依頼しました。佐藤さんは、最適な荷重配分を探すために、ガラス曲率や形状を検証するプログラムを作成して、実現可能なガラス壁の曲面デザインを探し出してくれました。
佐藤さんは大工のような構造家
佐藤さんは打ち合わせで、手描きの図面と計算を示しながら構造を説明します。その過程で大まかな寸法などを決めることができる。設計者にとってはイメージが組み立てやすいのです。実際に構造の解析結果が出た後も、打ち合わせで膨らんだイメージのおかげで、設計の調整がスムーズに進むことが多い。
佐藤さんはある意味、昔気質の大工のような構造家なのかもしれません。常に自分の感覚を大切にしているからです。構造設計は安全性の観点から数値分析が重視されます。佐藤さんは経験に裏打ちされた感覚的なアイデアを盛り込む。そのため、構造家として対応できるデザインの幅が非常に広いのです。
2007年に東京都現代美術館のSPACE FOR YOUR FUTURE展で発表した「四角いふうせん」は、佐藤さんの構造設計の真骨頂でしょう。アルミニウムの骨格の風船は高さ14m、重量約1トンの構造物をヘリウムガスで浮かせました。施工の途中で骨格が曲がるなどの課題が出る度に、その場で判断しながら構造を再計算してつくり上げました。数値のみを信用するのではなく、自分の感覚で構造を考える佐藤さんだからこそ、実現できたプロジェクトだと思います。(談)
1ページ3段落目の表現を「構造設計は小西泰孝建築構造設計が手掛けていたが、途中から佐藤淳構造設計事務所が引き継いだ。佐藤氏の構造設計で建築確認が下り、」に修正しました。本文は修正済みです。 [2020/1/7 18:30]