コンクリートのような強度を持つ構造材料が、自ら増殖する。まるで生物のような新材料が、米コロラド大学の研究室で産声を上げた。まだ実験段階ではあるものの、建築材料の可能性を大きく広げそうだ。
骨材を主体にしたコンクリートのような材料が、あたかも生物のごとく増殖する─。にわかには想像し難い新材料を、米コロラド大学ボルダー校の研究チームが開発し、2020年1月に研究論文を発表した〔写真1〕。「生きた建材」と名付けられた新材料の開発を担ったのは、同校の生物素材研究室を率いるウィル・シュルーバー博士らだ。
新材料の要となっているのは、光合成を行う水生微生物の一種、シアノバクテリア(ラン藻細菌)だ。植物と同じように光のエネルギーを使い、二酸化炭素を取り込んで炭酸カルシウムを生成する。
シュルーバー博士らは砂を主体とした材料にシアノバクテリアを加え、まるで生物のように繁殖や自己修復といった機能を備える材料の開発に成功した。
生成方法は以下の通りだ。まずは、シアノバクテリアを砂、少量のゼラチン、水、栄養素と混ぜ合わせ、37℃程度の環境下でバクテリアを増殖させる。
この混合物を型枠に流し込むと、ゼラチンは砂粒子の間を縫うように行き渡る。砂粒子の間に編み目のように張り巡らされたゼラチンが砂粒子同士をくっつけて、ひとまとまりにしていく〔図1〕。
砂とゼラチンのまとまりの中でシアノバクテリアが活動を始めると、光合成によって生成された炭酸カルシウムが沈殿する。
この炭酸カルシウムには、ゼラチンと反応し、硬化する働きがある。「バイオミネラリゼーション(生体鉱物形成作用)」と呼ばれる反応で、生物が真珠や貝殻といった硬い組織をつくり出す働きと同じだ。
乾燥させてゼラチン中の水分を飛ばすと、さらに硬化が進む。砂のまとまりは一体化して型枠通りの形状に固まり、数日のうちに一般的なポルトランドセメントを使ったモルタルと同程度の圧縮強度を発揮するようになるという。