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家賃の高い東京の人気エリアに接する場所で、こだわりのある個人テナントのチャレンジを実現させる──。小田急電鉄が4月1日、全5棟・14店舗から成る商店街「BONUS TRACK(ボーナストラック)」を開業した。

 BONUS TRACKは、小田急電鉄が東京都世田谷区で開発を進める「下北線路街」のうち、下北沢駅周辺の繁華街からいくらか離れた一画に位置する〔写真13〕。

〔写真1〕遊歩道沿いに木造店舗が並ぶ
〔写真1〕遊歩道沿いに木造店舗が並ぶ
北東の端の下北沢駅側に立つ商業棟。左手は区有通路(区管理道路)の扱いとなる幅員4mの歩道。小田急電鉄が線路跡地の一部を世田谷区に貸与する格好となる(写真:山本 育憲)
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〔写真2〕「雑木林」に包まれる施設に
〔写真2〕「雑木林」に包まれる施設に
商業棟とSOHO棟に囲まれた広場的な使い方を可能とする空間。「雑木林に包まれたような趣としたいので、高木中心の植栽帯を求めた」と小田急電鉄の橋本課長は語る(写真:山本 育憲)
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〔写真3〕歩道側にテークアウトカウンター
〔写真3〕歩道側にテークアウトカウンター
歩道に面するSOHO棟1階、コーヒーも販売する日記専門店「日記屋 月日」のテークアウトカウンター前。コンクリート製のカウンターのはね出し部の仕上げは、テナントが選べる部分と位置づけている(写真:山本 育憲)
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 下北線路街は、小田急小田原線が地下化された線路の跡地に、多様な施設を順次建設するプロジェクトだ(4ページ目の囲み参照)。約1.7kmのライン(線)状のエリアに「シモキタらしい」街を生み出そうとしている。

 駅の最寄りでは直近10年間で家賃が3倍近くに高騰し、チェーン店が目立ってきた。BONUS TRACKは、改めて同エリアならではの魅力のある個人テナントや若い店舗起業者を集める試みとなる。また、街に人気があるといっても、駅から距離のある場所では空き家の増加や住民の高齢化が進行中だ。そうした沿線エリアを再生する核施設の役割も担う。

 建築設計および一部店舗の内装設計をツバメアーキテクツ、施工を山菱工務店が手掛けた。全体の運営は、BONUS TRACKの開発を機に設立された散歩社が担う。マスターリーサー(転貸者)の立場である同社は、小田急電鉄に協力し、テナント誘致にも携わった〔図1〕。

〔図1〕BONUS TRACKのプロジェクト体制図
〔図1〕BONUS TRACKのプロジェクト体制図
サブリース(転貸)型の事業形態を取るが、マスターリーサーの散歩社は、若手起業者とのネットワークや施設運営力を期待されて関わっているのが特徴。設計者も早期から参画し、改変を続けていける商業建築を模索した(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 「運営の意向を把握しやすい体制が早くから組まれていた。テナントの個性を生かすための設計に反映させることができた」とツバメアーキテクツ共同代表の千葉元生氏は振り返る。

 計画着手時、「BONUS TRACKにふさわしいと思われる個人テナントに、あらかじめ家賃負担力をヒアリングした」と小田急電鉄生活創造事業本部開発推進部の橋本崇課長は説明する。建物をつくってから賃料を決めるのでは実態のニーズと合わなくなるからだ。「支払い可能な月額家賃は15万円、店舗兼用住宅としては10坪あれば成立するので、坪単価1.5万円が目安だと分かった。そこから逆算して事業や建物を計画した」(橋本課長)