建設プロセスのあらゆる場面でデジタル革命が起こっており、「知らない」では済まされなくなった。最近よく耳にするのが、「デジタルツイン」「点群」「MR(複合現実)」の3つのキーワードである〔写真1〕。建築分野に浸透しつつある最先端のデジタル活用を、現場の写真と画像を多数盛り込んで紹介する。
現実と仮想の行き来でアップデート
建物や都市のデジタルツイン
現実空間と仮想空間を融合し、自在に行き来する「デジタルツイン」(仮想の双子の意味)の構築が、建設業界でブームになっている。建物だけでなく、都市全体を再現したバーチャルモデルの活用現場に迫る。
東京都江東区で開発が進む「豊洲6丁目4-2・3街区プロジェクト(仮称)」の街区内に、日本初となる都市型道の駅「豊洲MiCHiの駅」が誕生する。事業者で設計・施工も手掛ける清水建設は、2021年秋の開業を予定している。投資額は約600億円で、同社単独開発としては過去最大規模。湾岸の交通結節点になる。
同時に「都市デジタルツイン」のモデル現場になることでも注目を集める〔図1〕。東京都は20年7月、東京のポテンシャルを引き出す「スマート東京(東京版 Society5.0)」の実装に向け、都内3つのプロジェクトを支援すると発表。その1つが上記の街区を含めた「豊洲スマートシティ」だ。清水建設は街区とその周辺を対象に、フィジカル(現実)空間とサイバー(仮想)空間の構築を計画の最初から念頭に置いている。
このプロジェクトは大規模なオフィスビルとホテルの2棟を中核とする。両棟の間に「交通広場」を設ける。
施設をつくったらおしまいではない。利用者や設置・移動する物、そして交通結節点の空間を日々モニタリングしてデータを集める。
現実空間にカメラやセンサーを多数設置し、交通量や人流、物流、環境などのデータを取得。それらを仮想空間に投入し、様々なシミュレーションを実施する。効果的な結果が出れば、現実空間に反映。都市を常にアップデートしていく。
現実に反映しやすい空間情報
清水建設は豊洲エリアのデジタルツインの一部を日経アーキテクチュアに公開した。中核2棟はBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使い、細部まで描写している。なぜここまでデジタルツインにこだわるのか。
同社LCV事業本部ICT・スマート事業部の加藤雅裕事業部長は「シミュレーション結果を現実世界に最も反映させやすいのは、空間設計だろう。ここは当社の本業で、都市の進化に欠かせない。デジタルツインは、収集した空間データの分析と実装前の試験の場と捉えている」と語る。
次世代モビリティーによる移動や物流の検証と導入も始まる。豊洲MiCHiの駅に新しい交通サービスを実装し、改善拠点にする。
豊洲に隣接する越中島にある清水建設の技術研究所では、建物の屋内外や道路のデジタルツインを研究所自体をモデルにして検証中だ〔図2〕。自動運転車や移動型ロボットに、空間データは必須。デジタルマップなしに、安全で快適な走行はできない。
技術研究所未来創造技術センターデジタルXグループの白石理人グループ長は「モビリティーが周囲をスキャンするのも大切だが、建物や道路といった空間データがベースにあれば、自律走行の精度は高まる」と説く。建設会社が持つBIMデータは、空間を表現するのに最適だ。
清水建設に限らず、ゼネコン各社がデジタルツインに傾倒するのは、普及が進むBIMで自らの力を発揮しやすいからだろう。加藤事業部長は「BIMはデジタルツインのベースであり、建設会社の知見を蓄えるナレッジシステムでもある」と主張する。