ザ・ホテル青龍 京都清水(京都市東山区)
記憶を継承する上質ホテルに蘇生
京都市が進める、民間事業者による学校跡地活用の第1号は、この元清水小学校跡地だ。昭和初期に建てられた個性的な外観の校舎をラグジュアリーホテルに転用した。敷地は東山の高台にあり、清水寺も近い立地だ。
2011年に閉校した清水小学校も、「番組小学校」をルーツとする市立小学校の1つだ。1933年に東山の現在地に建てられた鉄筋コンクリート造の校舎は、スパニッシュ瓦やアーチ形の窓といった洋風建築の要素を持ちつつ、軒下には和風建築に見られる木製の腕木が付く外観で、内部も外部も細やかなデザインが施され、歴史的に貴重な建物だ。
活用事業者を決めるプロポーザルは2015年から16年にかけて実施され、全10社からNTT都市開発が選ばれた。土地貸付の契約期間は60年間で、賃料は年額約5042万円。同社の企画・総合プロデュースで開業した「ザ・ホテル青龍 京都清水」は、トータルクリエイティブディレクションを乃村工芸社A.N.D.のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターである小坂竜氏、基本設計は東急設計コンサルタント、実施設計は大林組、新築・増築部の外装設計はファムスが手掛けた。
既存部を引き立たせる増築部
この学校跡地では、コの字形の平面、廊下と居室の関係といった既存校舎の空間構成を踏襲しながら改修・増築を行った。旧校舎の見え方に配慮し、増築客室部は北側に配置した。別にレストラン棟と、地域の自治会施設を中心とする付属棟を新築し、旧校舎にあった和室の「礼法室」は付属棟の2階に移設した。
増築部では、その外観意匠が主張し過ぎてはならないというのが市の景観委員会の考えだった。そこで装飾性を抑えた現代的なデザインとし、色も黒色系を選び、既存校舎と明確に対比させた〔写真11〕。
NTT都市開発はプロポーザル段階では、元清水小学校の隣地で以前開発したブライダル施設と連携し、ブライダル事業を行うことも提案に含めていた。また、ホテルの運営も賃貸借方式で考えていた。
当選後に三者協議が始まったのと同じ頃に、「新風館」の再々開発が始まった。新風館も当初は賃貸借方式でホテルを入れる予定だったが難航し、同社初のマネジメントコントラクト方式(運営受託方式)に切り替えたところ、米国「エースホテル」の誘致に成功した。
同社商業事業本部商業・ホテル開発部長の中村高士氏は「新風館でマネジメントコントラクト方式のホテル経営の事業スキームをつくれたことは大きい。それをホテル青龍に当てはめることができた」と話す。元清水小学校跡地ではプリンスホテルを運営者に迎え、それによってラグジュアリーホテルをつくるという方向性も定まった。