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働きやすさの向上や建物の長寿命化を狙った浅沼組名古屋支店のオフィスビル改修が、2021年9月に完了した。既存躯体はそのままに、吉野杉の内外装や建設残土の壁、植栽を多用。運用時のCO2排出量半減も見込む。

 JR名古屋駅から車で数分走ると、高速道路の新洲崎ジャンクション近くに、木材をふんだんに使った真新しいホテルのような建物が現れる。ビル正面には、丸太の列柱や植栽の緑が目を引くベランダが配置されている〔写真1〕。実はこの建物、築30年のオフィスビルだ。

〔写真1〕吉野杉の丸太の列柱や庇があるベランダ
〔写真1〕吉野杉の丸太の列柱や庇があるベランダ
改修前と比べて窓面を2.5mセットバックし、2~7階にそれぞれ半屋外のベランダ空間を設けた。正面道路側に植栽を施し、周りに吉野杉の列柱や庇、ベンチ、ウッドデッキを配置した。従業員が働いたり、くつろいだりできる。ベランダが職場の快適さと省エネルギーの両立に貢献している(写真:車田 保)
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 浅沼組は「人間にも地球にも良い循環」をつくる「GOOD CYCLE BUILDING(グッドサイクルビル)」の第1弾として、自社ビルの名古屋支店を改修した〔写真2〕。スクラップ・アンド・ビルドの建築を建設会社自らが改め、健康で快適な職場にリニューアルする取り組みだ。

〔写真2〕明るく開放的になった執務室
改修前の執務室。西日が強く差し込み、常にブラインドを下げた状態で自然光が奥まで届かず暗かった(写真:浅沼組)
改修前の執務室。西日が強く差し込み、常にブラインドを下げた状態で自然光が奥まで届かず暗かった(写真:浅沼組)
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改修後の執務室。ベランダを緩衝帯とすることで直射光の侵入を避け、ブラインドを下ろさずに明るい執務室で働ける(写真:車田 保)
改修後の執務室。ベランダを緩衝帯とすることで直射光の侵入を避け、ブラインドを下ろさずに明るい執務室で働ける(写真:車田 保)
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 メインファサードを改修前後で見比べると、同じビルとは思えないほど劇的に変わった〔写真3〕。西向きの建物正面はかつてガラス張りだった。改修で窓面を2.5mセットバックしてベランダを設け、外観を刷新した。

〔写真3〕象徴的な木のファサードで改修を実感
〔写真3〕象徴的な木のファサードで改修を実感
改修前(左)と改修後(右)の名古屋支店の外観。西向きのメインファサードを、ガラス張りから木材や緑を使った外装に刷新した。全く別の建物のようだ(写真:左は浅沼組、右は車田 保)
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 既存躯体は壊さずに活用した。地下1階・地上8階建てで高さが約31m、鉄骨造はそのまま。そこに吉野杉の丸太を使った外装や、約12tの建設残土を利用した土塗り壁や還土ブロック壁などを導入した。新たに加えるものは可能な限り自然素材を使うルールを設け、人に優しく、かつ「いずれ土に還(かえ)る」建築を目指した。

 浅沼組はデザインパートナーとして環境配慮型建築に詳しい川島範久建築設計事務所(東京都世田谷区)と組み、共同で設計を手掛けた。

 職場の変化を強く実感できるのは、既存スラブの一部を除去して吹き抜けを新設したエントランスホールだろう〔写真4〕。突き当たりの既存壁を取り除き、2階に続く階段室を増築した。階段室の天井全面にトップライトを設け、光と風を取り込む。

〔写真4〕吹き抜けを新設した広いエントランスホール
〔写真4〕吹き抜けを新設した広いエントランスホール
1階のエントランスホール。長手方向に吹き抜けを設けるため、2階の既存スラブを除去した。突き当たりの既存壁も取り除き、階段室を増築した。階段室の天井にはトップライトを設け、光と風を取り込む(写真:車田 保)
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改修前のエントランスホールは、中規模ビルにありがちな狭く無機質な空間だった。ここで使っていた石材は改修の内装材などに転用(写真:浅沼組)
改修前のエントランスホールは、中規模ビルにありがちな狭く無機質な空間だった。ここで使っていた石材は改修の内装材などに転用(写真:浅沼組)
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 階段室を増築したため、建築面積は改修前の358.70m2から381.29m2に拡大。一方で吹き抜けを新設したので、延べ面積は改修前の2892.50m2から2779.64m2に縮小している。

 「中規模ビルは奥行きが浅い。開口部の計画を適切に行えば、自然採光と通風が可能なビルに改修しやすい」と、川島範久建築設計事務所の川島範久主宰は説明する。