建設現場での無線LAN構築に注目が集まっている。スマートフォンやタブレットがWi-Fiにつながらないと、Webも図面も見にくくて不便だからだ。単管パイプや分電盤を用いて無線LANを構築した、驚きの現場に迫る。
戸田建設は2020年夏、古野電気とPicoCELA(ピコセラ)(東京都中央区)と共同で、超高層ビルの建設現場で広く無線LANが使えるシステムを開発した。仕組みは非常にユニークだ〔写真1、2〕。現場でよく見る単管パイプ(中空の金属管)をLANケーブルの代わりに使う。戸田建設と古野電気が開発した「ウェーブガイドLAN」がベースで、垂直設置型の「アンテナユニット」の上下にパイプを付け、ビルの地下から上層階まで電波を送る。
さらにビルの約10層ごとに、PicoCELAの無線LAN機器である「PCWL-0410」を「AP(アクセスポイント)」として設置する。複数のAPを接続するPicoCELAの「無線バックホール方式」を併用するためだ。
Wi-Fiをよく使う階には、フロア内に複数のAPを置いて通信可能エリアを拡大。建設現場に「全域Wi-Fi」を構築した〔図1〕。これにより、現場のどこにいても大容量な図面データをダウンロードして閲覧したり、モバイル端末やウエアラブル端末、カメラなどを高速にネット接続して仕事に役立てたりできるようになった。全域Wi-Fiは現場の生産性を高め、働き方改革を推進する建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤だ。
全域Wi-Fiをいち早く導入したのは、日本一の超高層ビルが立つ予定である「東京駅前常盤橋プロジェクト」の建設現場である。9月に街区名が「TOKYO TORCH(トウキョウ トーチ)」に決まったばかりだ。街区で最も高いB棟は「Torch Tower(トーチ タワー)」と名付けられた。高さは約390m。27年度の竣工を計画している。その隣には、21年6月に竣工予定のA棟が先に立つ。こちらは名称が「常盤橋タワー」に決定した。
高さが約212mある、地下5階・地上38階建てのA棟は既に上棟している。現在は内装工事中だ〔写真3〕。
A棟の施工を担当しているのが戸田建設である。このビルの建設現場にWi-Fi網を張り巡らせた。高層ビルの上層階はスマホの電波が届きにくい。これではコミュニケーションが取れない。クラウドにあるアプリも使えない。超高層ビルの建設現場をWi-Fiで網羅した例は皆無に等しい。戸田建設はそれをやってのけた。