外に開く力を抑えて施工
免震化工事は一筋縄ではいかなかった。テレビ塔の地下6mには地下鉄が走り、地下3mには地下街が迫る。塔の下を面的に広く、深く掘削して免震デバイスを入れることは難しい。しかも、塔脚を一体的に揺らすための新たなスラブが必要となるため、採算が合わないことも分かった。
着目したのが、平面で見て4つの塔脚をロの字に結ぶ、既存の基礎梁だ。基礎梁の上に浅いピットを設けてタイバー(水平に連結する鋼材)を通し、塔脚同士を固定。塔脚の基礎周りだけを掘ることで掘削量を減らし、基礎下に免震デバイスを組み込む方法を編み出した。
施工の難所は、既存の基礎梁にかかる力を新設のタイバーに移行するプロセスだった〔図2〕。塔の総重量は、地下躯体などを除いて約4000トン。塔全体が裾広がりの形状をしているため、塔脚と梁には常に外側に開こうとするスラスト力がかかっている。塔脚のスパンは約35mで、塔の変形を防ぐには、改修による開き幅を5mm以下に抑えなくてはならなかった。
最初に、広場の上に架かるアーチ下面を炭素繊維シートで補強してから、基礎周りの施工を始めた。既存基礎の上部を撤去し、既存の塔脚にタイバー端部を接合。逆側の端部を張力制御装置につないだ。
続けて、塔脚周りに新たな基礎を構築し、PC鋼棒による圧着工法で既存基礎と一体化した。そしてタイバーに4900kNの初期張力を導入。塔脚間が6mm程度縮み、つり合いが取れたことを確認してから、ジャッキアップして仮受け、免震デバイスを入れ、最後に既存基礎梁を切断した。
免震デバイスは積層ゴム、直動転がり支承、耐風ストッパー、オイルダンパーの4種類を用いた。耐風ストッパーは、常時受ける風による揺れを低減させつつ、地震発生時には外れる機構だ。日建設計と日鉄エンジニアリングが新たに共同開発した。
「見た目が変わらない、と言われるのが最大の褒め言葉だ」と、石森プロジェクトデザイナーは破顔した。市民に親しまれてきた街のシンボルは、姿そのままに再生され、公園と共に新しい名古屋の魅力をつむぎ出す。
- 主用途:電波塔(改修前)、展望台、飲食、物販、宿泊など(改修後)
- 建蔽率:60.86%(許容100%)
- 容積率:181.53%(許容800%)
- 敷地面積:2015.44m2
- 建築面積:1226.48m2
- 延べ面積:3658.46m2
- 構造:鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造
- 階数:地下1階・地上5階(展望台は工作物)
- 耐火性能:耐火建築物
- 基礎・杭:直接基礎、基礎免震
- 高さ:最高高さ約180m
- 発注・運営者:名古屋テレビ塔
- 改修設計・監理者:日建設計
- 改修施工者:竹中工務店
- 施工期間:2019年2月1日~20年8月31日
- 開業日:2020年9月18日
- 総工事費:約30億円
初出時、基礎梁の切断に関する記述に誤りがありました。日建設計の申し入れにより、6ページ目本文5段落目の「初期張力を加えた後、基礎梁を切断。塔脚が1mm程度開いてつり合いが取れたことを確認してから、ジャッキアップして仮受け、免震デバイスを入れていった」を、「初期張力を導入。塔脚間が6mm程度縮み、つり合いが取れたことを確認してから、ジャッキアップして仮受け、免震デバイスを入れ、最後に既存基礎梁を切断した」に訂正します。また、図2の説明文で、プロセス3の「既存の基礎梁を切断」を削除、プロセス4の最後に「その後、既存基礎梁を切断する」を加えます。いずれも修正済みです。 [2021/02/05 15:08]