高さ133.66m、地上30階建ての新宿NSビルは、超高層ビルが立ち並ぶ東京・西新宿のかいわいでは、高さにおいて明らかに見劣りする。外観はずんぐりむっくりした感じで、小ぶりの窓が並ぶタイル張りの壁も一見、地味である。
しかし、いったん中へと入るとその印象はガラリと変わるだろう。東西に60m、南北に40mの広さをもった吹き抜けの広場が、1階から最上階までを貫いており、頭上のガラス屋根を通して入ってくる自然光が内部を満たしているのだ。
各フロアのアトリウム側には廊下がぐるりと回り、壁面には高層階、中層階、低層階に別れたエレベーターのバンクが現れている。レストランがテナントを占める29階には空中にブリッジが架かり、アトリウムを見下ろすことができる。また床レベルに近い低い位置には、巨大な振り子式時計が据えられていて、大空間を彩るアクセントとなっている。
こうした屋外のような環境を持った内部空間をアトリウムと呼ぶ。しかし、この建物が完成した1980年代初めにはこの言葉が定着しておらず、建物を説明する雑誌の記事を読み返しても、アトリウムの語は使われていない。
「建築巡礼」で以前に訪れた大同生命本社ビル(1972年完成)のロビー空間も、アトリウムの先駆けだった。あちらは建物低層部を半屋外的な大空間が取り巻いていた。それに対して、新宿NSビルは建物に囲まれた内側に半屋外空間が設けられている。
全く異なるタイプのアトリウムである。こんな空間はそれまで日本に存在しなかった。初めての本格的なアトリウムといえる。なぜ新宿NSビルはこれを実現させたのか。