東京臨海副都心の青海地区に立つ、門形の建物がテレコムセンタービルだ。上部をつないだ屋上部は、衛星通信のアンテナを置くスペースとして設けられたもので、テレビがアナログ放送だった頃は、ここから離島に向けて放送電波を発信していた。建物内部の大部分はオフィス用のテナントフロアで、地上波独立テレビ局の東京メトロポリタンテレビジョンが入居していたこともあった。
設計は日総建とHOK(ヘルムース・オバタ・カッサバウム)の共同による。日総建は電電公社(現・NTT)の設計部門から派生した設計事務所で、情報通信技術を統合したインテリジェントビルと呼ばれる建物の設計を得意としていた。HOKは米国の実績ある大手設計事務所である。
臨海副都心には、フジテレビ本社ビル(以下、FCGビル)や東京ビッグサイトなど、遠方からも多くの人が集まる施設が集積しているが、この辺りの人出は少ない。テレコムセンタービルも、新交通ゆりかもめの駅から直結という便利さだが、中まで入ったことがあるという人はまれだろう。しかし初めて訪れた場合でも、以前に来たことがあるような、そんな不思議な感じを抱くかもしれない。デジャヴと呼ばれる体験だ。
というのもこのビルは、映画やテレビドラマのロケ地として、しばしば使われているからだ。特にアトリウムに面した5階が空港のシーンとして使われることが多く、例えば「下町ロケット」(TBS、2018年)や「コンフィデンスマンJP」(フジテレビ、同年)で、それを見ることができる。柱がなく、広くて天井が高い空間だからというだけでなく、南側に高いビルがないため、ガラスの向こうに大きな空が広がっていることも、空港らしさを高めているという。実際、羽田空港を離発着していく飛行機が飛んでいるのも見ることができる。