東京のターミナル駅の1つ、池袋から西武鉄道に乗って30分余り。狭山ケ丘駅で降りると、すぐ近くにこの建物はあった。3階建てで、地下1階と1階の一部が駐輪場、3階がオーナーの住居で、それ以外がテナントスペースとなっている。取材した2021年2月時点では飲食店、洋菓子店、歯科医院などが入っていた。
設計したのは石井和紘(1944~2015年)だ。「建築巡礼」では以前に、直島町役場という作品を取り上げた。それは西本願寺飛雲閣を模したものだったが、今回の建物でも和風の意匠が随所に取り入れられている。バルコニーの囲いには城の石垣、そして外壁にはナマコ壁。どちらも材料はステンレスで、見た目をなぞっただけのものだが。
そうした中で一番強く和風らしさを感じさせているのが瓦屋根である。瓦を採用した理由は単純で、クライアントが瓦職人だったから。今回の撮影時に、2代目から建設時のエピソードをうかがうと、石井和紘という建築家のことは雑誌の記事で知り、この人なら瓦を使った斬新な建物をつくってくれそうだと思ったという。
背景には、瓦を使った新築がどんどん減っていくという状況があった。瓦という材料の面白さを若い人たちにも伝えて、これからも使われ続けるようにしたい。そんな思いを抱いての設計依頼だった。なので、石井が最初に持ってきた設計案は「これではつまらない」と突き返したのだそうだ。そうして出来上がったのが、このジャイロルーフである。