大岡山の駅から改札を出ると、目の前に異様な迫力を持った建物が現れる。これが東京工業大学百年記念館だ。
東工大の大岡山キャンパスには、ここで建築を教えた教授陣による名建築が数多く存在する。本館(設計:橘節男、竣工:1934年)、創立70周年記念講堂(谷口吉郎、58年)、大岡山事務局1号館(清家清、67年)、蔵前会館(坂本一成+日建設計、2009年)、付属図書館(安田幸一+佐藤総合計画、11年)、環境エネルギーイノベーション棟(塚本由晴+日本設計、12年)などだ。
東工大の教授ではないが、20年には隈研吾の設計により、学生のための国際交流拠点であるHisao&Hiroko Taki Plazaも完成している。
百年記念館も、東工大のプロフェッサーアーキテクトだった篠原一男の設計によるものだ。
篠原といえば、から傘の家(1961年)、白の家(66年)、未完の家(70年)などを手掛けた住宅作家として知られるが、数少ない非住宅の代表作がこの建物である。
外観で目を引くのは、アルミとガラスで覆われたボディーから突き出した、半円形断面のボリュームだ。下に膨らんだ直径11mのハーフシリンダーは、平面を斜めに突っ切るように貫いており、しかも途中でわずかに折れ曲がっている。
気になるのは、この意味ありげな角度だ。これが丹下健三の設計によるものだったら、一方は東工大発祥の地である蔵前の地を指し、もう一方は富士山を指している……とでもなりそうだが、ハーフシリンダーの先を地図でいくら探しても、いわくありげなものにはたどり着かない。そうした軸線の設定は考えられていないようである。