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大きさの臨界量を超えた建築

 しかし今になって振り返ると、当時の林のスタンスは、後に世界的に活躍する建築家、レム・コールハースの考え方に非常に近かったのでは、とも受け取れるのだ。

 コールハースは唱えた。建築の大きさがある臨界量を超えると、「ビッグネス」という状態に達する。それは善悪を超えた、道徳と無関係の領域である。そうした建物にとって、質はもはやどうでもいい。

 そして、「ビッグネスによってのみ、建築は近代主義とフォルマリズムの擦り切れた芸術/イデオロギー運動から離れ、近代化を推進する手段としての有効性を回復することができる」(レム・コールハース『S,M,L,XL+』ちくま学芸文庫、原著1995年)として、ビッグネスを肯定的に評価する。

 コールハースは、ビッグネス理論の実践として、いくつかの建築をつくった。それが例えば、様々な図書館の機能を分解したうえで積み重ねたシアトル中央図書館(2004年)であり、公共広場と証券取引所と超高層オフィスを3段に積んだ深セン証券取引所ビル(2013年)だ。

 それらは、従来の建築美学の枠に収まらない形態を取りつつも、現代の都市にしっくりはまっている。

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 中野サンプラザは、そうした「ビッグネス」としての建築を先駆けていたものと思える。今こそ高く評価したい。

(文中敬称略)


文・写真:磯 達雄(ライター)「このホールでキング・クリムゾンやアイドリング!!!のライブを見た」
イラスト:宮沢 洋(日経アーキテクチュア編集長) 「サンプラザ中野くんが高校・大学の先輩。ここでは見てませんが」


〔連載の趣旨〕

建築巡礼昭和モダン編では、戦後に国内で建設された建築を年代ごとに取り上げていきます。現在は1970年代。3号に1回掲載の予定です。