安全だと信じていた──。東日本大震災や熊本地震では、震災が引き起こした様々な紛争が裁判所に持ち込まれた。震災被害がどう裁かれたかは建築の安全性を問い直す手掛かりとなる。見えてきたのは、阪神大震災以降に進んだ法令や技術基準の整備により、「天災」という言い訳が通用しなくなっている現実だ。現在、係争中の熊本地震のブロック塀倒壊訴訟、さらに東日本大震災のミューザ川崎天井落下訴訟と石巻・大川小学校津波訴訟の2つの注目判決から、建築実務者は何に備えるべきかを探る。

特集
震災裁判
相次ぐ地震で問われるプロの責任
目次
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擁壁上の塀は「違法」と提訴
遺族らが6700万円の損害賠償を請求
ブロック塀倒壊事故は2016年の熊本地震でも発生した。倒れたブロック塀の下敷きになって2人が死傷した。遺族らは塀の違法性を主張。所有者らを相手取り、6700万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。
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復旧費20億円請求も「過失なし」
震度5強で崩落した吊り天井、1審は設計者・施工者の責任否定
震度5強で吊り天井が崩落したのは、設計者・施工者の責任か。ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)の事故を巡る裁判で、横浜地裁は5月31日、所有者である川崎市の請求を棄却する判決を下した。市は控訴した。
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「防災計画」の過失を認定
ハザードマップは「結論として誤り」、石巻市などに14億円賠償命令
津波で児童らが犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校。児童23人の遺族が、市と県に損害賠償を求めた訴訟では、仙台高裁が学校側の防災計画の過失を認めた。市と県は判決を不服として、最高裁に上告した。
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「高台の教室」を実現できず
国の基準に従うだけでは命を守れない、大川小設計者の後悔
大川小学校を1983年に設計した北澤建築設計事務所(東京都渋谷区)の北澤興一代表は、東日本大震災から数年間、口を閉ざしてきた。裏山への設置を提案した東屋を実現できなかったことが「悔やまれる」と語る。
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「天災」の免責はないと思え
より生命の危険重んじる傾向、大川小訴訟で明確に
地震被害を巡る裁判が建築の専門家にも大きな影響を与えようとしている。事故対応や防災問題に詳しい弁護士は、「人命が損なわれた重大事故では、責任追及がより厳しくなっている」と分析する。