観光立国の切り札として「技術」に注目が集まっている。工業をはじめ日本の産業を支えてきた技術そのものが、国内外の人を引き付けるコンテンツとなり始めた。それを引き出すのも建築界の役割だ。技術を駆使して実現した現代建築や科学施設、産業施設を訪ね、地域づくりの一手段となる「技術観光=テクノツーリズム」の普及・定着に向けてヒントを探った。

テクノツーリズム 技術観光
名建築が証す日本のテクノロジー
目次
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海外評価を受け「技術押し」で新装
梅田スカイビル(大阪市北区)
景色よりも「技術」を前面に──。新装した梅田スカイビル・空中庭園展望台の改修方針だ。リフトアップという刺激に満ちた施工方法〔写真1〕こそが集客の売り物になると考えた。技術観光を考えるうえで学ぶ点は多い。
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産業発展期の負の側面を乗り越える
ベネッセアートサイト直島(香川県・岡山県)
瀬戸内の島々を舞台に、多数のアートワークを生んできた「ベネッセアートサイト直島」。アートと一体となって建築が生き、地域に溶け込む。建築家の描いた理想を実現する施工技術が、島の魅力づくりを支えてきた1つだ。
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海運・造船業の立場から客船事業も
guntû/洸庭(広島県福山市)
堀部安嗣氏(堀部安嗣建築設計事務所代表)が設計・デザインを手掛けた高級客船として注目されたのが、2017年10月就航の「guntû(ガンツウ)」。海運業として1903年、造船業として1917年に創業し、地元経済をけん引してきた広島県福山市の常石グループが、新たな形で地域の発展に寄与を図るプロジェク…
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金沢の伝統技術使ってリニューアル
野辺山写宙電波観測所(長野県南牧村)
建築に用いる素材技術が意外な場所で生きているのが、野辺山45m電波望遠鏡だ。1982年に完成。製造元の三菱電機が、自重変形を制御する技術、熱変形を抑える技術などを開発し、観測精度の向上に貢献した。94年、この望遠鏡が世界で初めて巨大ブラックホールを発見した。ミリ波観測用では現在も世界最大級の口径を…
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ロケットの進化に追随する大空間
内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)
日本の宇宙開発史における“聖地”である。東京大学教授の池辺陽(1920~79年)とその研究室の設計により、1962年に誕生したロケット打ち上げ施設だ。日本の宇宙開発の父、糸川英夫(1912~99年)率いる東大宇宙航空研究所が中心となって主要施設をつくり、現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の施設…
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「克雪」の拠点を今和次郎が設計
雪の里情報館(旧雪調庁舎、山形県新庄市)
青森県弘前市出身で、考現学の提唱によって知られる今和次郎(1888~1973年)が設計したとされる施設の1つが、山形県新庄市に残る。福島県田村市の旧大越(おおごえ)娯楽場などと並ぶ、希少な現存建築だ。傾斜角50度の急勾配の木造トラス屋根や、内部には明るい小屋裏を持つ。
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渓谷に築いた工業化の礎
読書発電所(長野県南木曽町)
読書(よみかき)発電所は、電力王・福沢桃介が木曽川に建設した発電所群の1つ。20世紀初頭、関西の工業化の進展を支えた。建築家・佐藤四郎の手になる装飾が施された白い建屋は、山深い渓谷に刻印された近代の象徴だ。
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リノベの先駆け、2度目の刷新
倉敷アイビースクエア(岡山県倉敷市)
施設のベースとなっているのは、1889年(明治22年)操業のレンガ造紡績工場だ。日本初の鹿児島紡績所(1867年)を整備した石河正龍らの設計で、“現存最古の紡績工場”として歴史的価値が高い。
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絹産業を支えた施設群を民間委託
新庄市エコロジーガーデン「原蚕の杜」(旧蚕糸試験場新庄支場、山形県新庄市)
養蚕・製糸業の一大興隆地だった山形にある、旧農林省蚕糸試験場新庄支場跡地は、10haの土地に数々の関連施設を残す。絹産業の歴史を物語る貴重な場所だ。2013年には各建物が国指定の登録有形文化財に登録されている。
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価値を再発見し誘客に活用
現代の観光は場所に潜む様々な価値を読み解き、結び付け、多彩なストーリーづくりによって旅行者のニーズに応える。「技術観光(テクノツーリズム)」の可能性を多角的に探った。