住宅の一次取得者で、「ミレニアル世代」に代表される若い世代の存在感が増してきた。デジタルネイティブで、物を「所有」するより「利用」する体験に重きを置くなど、上の世代にはない新しい価値観を持つといわれる世代だ。今後、縮小が見込まれる住宅市場において「選ばれる住宅」を提案するためには、新技術を取り入れながら生産性を高め、よりきめ細かくニーズに対応していく必要がある。多様化するニーズにどう応えるか。10の先駆的な動きから、これからの住宅設計のヒントを探る。

選ばれる住宅、10の革新
「ミレニアル世代」が揺さぶる住まいの在り方
目次
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1 “下地現し”でカスタマイズ誘う
「SE構法+軸組み」でDIYの可否を明示
「二階堂の家」は、カスタマイズ志向の強い30代夫婦のための住宅だ。建築家の藤原徹平氏は、SE構法と木造軸組みを組み合わせて“手を入れられる部位”を明示。構造材も壁も現しにして、住まい手によるDIYを誘う。
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2 適度な距離感”で稼働率90%超
家賃割高でも支持されるシェアハウスの進化形
ミレニアル世代を主なターゲットにした交流型の賃貸マンションで躍進する会社がある。交流のための共用スペースとプライバシーを確保した個室から成る“適度な距離感”で、若い世代の心を捉えている。
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3 戸建て分譲に「シェア」を導入
「共用庭」を囲む住戸配置でコミュニティー醸成
東京都・多摩ニュータウンの若葉台エリアで、「シェア」の仕組みを導入したユニークな戸建て分譲住宅街の開発が進む。「共用庭」やセンターハウスなど、住民でシェアする仕掛けを充実させ、子育て世代に訴求する。
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4 持たない世代捉える“小さな家”
場所に縛られない「コミュニケーションのツール」
物を持ち過ぎない「ミニマルライフ」を指向するといわれるミレニアル世代。その分、重視するのは、人とのつながりを感じられる体験だ。それを叶えるツールとして、“小さな家”が住宅市場で存在感を増してきた。
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5 米国で仕掛けるスマートホーム
日本人起業家による「HOMMA ONE」始動
「ミレニアル世代」という言葉を生んだ米国で、住宅分野のイノベーションをもくろむ日本人起業家がいる。HOMMAのCEO、本間毅氏だ。IT業界を歩んできた経験を生かし、ミレニアル世代向けの住宅開発を進める。
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6 入居後のデータを設計に反映
長谷工がセンサー活用で“攻めの維持管理”
入居後の暮らしに関する情報をセンサーで収集。データベース化し、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)データと連携する取り組みが始まった。攻めの維持管理と、競争力の高い提案に生かす。
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7 スマホで手軽に間取りコンペ
建築家と「間取り迷子」を緩やかにつなぐ
共働きが当たり前の若い子育て世代は忙しい。家づくりに伴う長い打ち合わせは、大きなハードルだ。これを建築家が描く「間取り図」で支援するサービスが登場した。効率良くこだわりを反映したい層に好評だ。
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8 AI設計で月100時間の省力化
設計者を与条件整理から解放、15分でプレゼンへ
集合住宅の設計作業では、様々な与条件を整理することがそのプロセスの第一歩となる。AI(人工知能)技術を取り入れることにより、煩雑な条件整理を短時間のうちに自動で処理するシステムが運用され始めている。
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9 「BIM+VR」で設計速度を上げる
設計時間は3分の1、確認申請や施工も一気通貫
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とVR(バーチャル・リアリティー、仮想現実)を家づくりのプロセスにフル活用している設計事務所がある。意思決定を早め、手戻りを減らすことで効率化を図る。
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10 木造大型パネルで現場を省力化
誰でも使える「軸組みの工業化」が始動
木造軸組み工法は、施工のスピードや品質が大工の腕に左右されがちだ。熟練工が減少するなか、その弱点を克服すべく、工場で受託製造する大型パネルによって大工作業の「工業化」を進める動きが始動した。
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多様性にルール見いだす
共感と合理化の両立がカギ
新たな価値観を持つ「ミレニアル世代」が住宅購入の主役になり始めた。一方で、建設現場の職人不足は深刻化し、注文住宅も生産性向上を迫られている。これからの選ばれる住宅は、「共感」と「合理化」の両立がカギだ。