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「冬に暖かい家」は住宅設計の基本として浸透してきた。一方で、夏の涼しさに配慮した家は少ない、と前真之・東京大学准教授は指摘する。今回は、建築物省エネ法が定める日射遮蔽性能の問題点をつまびらかにする。

(イラスト:ナカニシ ミエ)
(イラスト:ナカニシ ミエ)

 現在の建築物省エネ法においては、住宅の断熱性は「外皮平均熱貫流率」UA値で規定されている。一方、夏の涼しさについては、日射の遮蔽性能を定める「冷房期の平均日射熱取得率」ηAC(イータエーシー)が指標となる。ηACが小さいほど、敷地に降り注ぐ日射熱のうち室内に侵入する熱量が少なくなる。例えば6地域であれば、ηACは「2.8以下」を下回る必要がある。

 本連載のQ4「UA値さえ小さければ暖かい家?」では、むやみなUA値競争が必ずしも「冬に暖かい家」につながらない危険性を示した。今回は、ηACの解説とともに「夏に涼しい家」について考察する。

ηACの計算はUA値より面倒

 ηACの計算は方位が重要なため、UA値の計算と比較すると、かなり面倒臭い〔図1〕。日射熱侵入の主たる部位である窓については、方位係数νcや補正係数fc、日射熱取得率η値の数表と首っ引きになりながら、ちまちま計算することを強いられる。庇などの遮蔽効果を考慮する補正係数fcには、複数の計算ルートがあり、面倒なので定数0.93で処理してしまう場合が多い。窓の値を求めた後も、外壁や屋根など外皮の全部位について、それぞれ計算するハメになる。

〔図1〕窓をはじめ外皮の全部位をひたすら計算
〔図1〕窓をはじめ外皮の全部位をひたすら計算
「冷房期の平均日射熱取得率」ηAC値の計算手順。STEP1は日射取得の大部分を占める開口部に限定して示した。ここでは各係数に、夏の冷房期(Cooling)を表すCが付いている。冬の暖房期(Heating)の場合はHが付く。窓の日射量を求めた後、壁など外皮の全部位を同様に計算していく(資料:前 真之)
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 こうして手間暇かけて計算したηACであるが、基準値を下回っていることを確認したらそれっきりにされる場合が多い。ηACを巡る問題点を図2に整理しておいた。

1.図面でチェックができる限られた日射遮蔽しか認められていない 日射遮蔽部材が「和障子」と「外ブラインド」に限定されることで「日射遮蔽型」の窓が安易に採用されてしまい、冬の寒さの原因に
(イラスト:ナカニシ ミエ)
(イラスト:ナカニシ ミエ)
2.窓の日射熱取得率η値が冷房期・暖房期で固定値 外ブラインドなどを設置した場合、冷房期ηACは小さくなるが、暖房期ηAHも下がってしまう。季節によっては不利に
3.断熱レベルによらずηAC値の基準値が一定 断熱性能が向上するほど日射が侵入した場合の温度上昇は厳しくなるはず。しかし現状では、より高断熱のHEAT20やZEHでもηAC値は省エネ基準と変わらない
4.寒冷地の1~4地域ではηAC値の規制がない 日射遮蔽を全く考えない家が寒冷地にどんどん建てられてしまう。断熱が強化されているので夏期の日射による暑さは寒冷地でも大きな問題
〔図2〕省エネ基準やZEHにおけるηACは問題だらけ
「冷房期の平均日射熱取得率」ηAC値の問題点。現在の建築物省エネ法における日射遮蔽の基準は 多くの問題を有している。ηACの基準値さえクリアしていれば涼しい家になるという保証はどこにもない

 まず初めの問題は、限られた日射遮蔽措置しか認められないこと(1)。窓の外で日射を遮る付属部材として認められているのは、「和障子」と「外ブラインド」の2つだけ。実際には、カーテンや内ブラインドをはじめ、昔ながらの簾(すだれ)やよしずなど日射遮蔽には手軽な手法が多く存在する。その効果は大きいにもかかわらず、省エネ基準上は認められていない。