温暖化の進行を肌で感じる昨今の夏。エアコンの買い替えを考えた人も多いだろう。前真之・東京大学准教授は、エアコンの性能表示は実使用と合致しておらず、間違った機器選びを誘導しかねないと警鐘を鳴らす。

熱中症予防のためにも、盛夏の時期に冷房なしで暮らすことは、もはや不可能だ。暖房には様々な方式があるが、冷房の場合、現実的にはエアコン一択。今回は、正しい機器選びに欠かせない、エアコンの省エネ性能の読み解き方について解説する。
まずは図1の性能ラベルを例に、エアコン効率を確認するための基本用語などを確認しよう。
🅐 | 以前使われていた定格効率(COP)は、2010年以降はカタログ表示から削除されたが、冷房・暖房の定格能力を消費電力で割れば、自分で計算できる。この機種の場合、 暖房定格効率=3.6×1000÷680=5.3/冷房定格効率=2.8×1000÷560=5.0 |
🅑 | 通年エネルギー消費効率(APF)=暖冷房の熱負荷合計÷期間消費電力量。 APFは、2005年に制定された外気温・熱負荷の分布と効率変動に基づく通年の効率。熱負荷の合計は暖冷房能力に応じてJISに定められており、 2.8kW機種は5296kWh |
🅒 | 期間消費電力量は、夏は冷房、冬は暖房を1日18時間運転した場合の推定消費電力量。JIS C 9612に基づき、東京の気象条件において冷房期間と暖房期間が定められている |
🅓 | 省エネ基準達成率は、トップランナー基準で機器能力ごとに定められたAPFの目標値(2.8kW機種は5.8)から、どれだけ優れているかを示す |
🅔 | 設置場所の畳数の目安は、空気調和・衛生工学会が1965年に制定した推定法に基づく。断熱や日射遮蔽がほとんどない低性能住宅が想定されており、現代においては、ユーザーを過大な能力のエアコン選びに誘導しかねない |
エアコンのエネルギー効率は2004年まで、冷房と暖房の定格効率(COP=定格能力÷消費電力)で示されており、この値が高い機種を選ぶことが節電につながるとされていた(A)。だが、COPは定格能力(≒通常運転における100%能力)での効率しか示しておらず、低負荷での運転が多い実使用との乖離(かいり)が問題とされた。より実態に近づけた新たな指標として、通年エネルギー消費効率(APF)が05年に制定された(B)。
APFが高いと電気代が安い
APFの計算では、東京の外気温の発生時間を基に暖冷房を1日18時間、外気温35℃で冷房定格能力100%の負荷が発生すると仮定し、後述するエアコンの効率変動を考慮して「期間消費電力量」を算出する(C)。暖冷房の熱負荷合計を期間消費電力量で除した値がAPFだ。値が大きいほど少ない電力量で暖冷房の熱負荷を処理でき、節電になる。
国は、機器の能力ごとにAPFの目標値を定め、到達できない機種を市場から「退場」させている。エアコンの性能ラベルに記載されている「省エネ基準達成率」は、このトップランナー目標値から当該機種のAPFがどれだけ高いかを示している(D)。
気になる暖冷房費は、期間消費電力量(kWh)に電気代の単価をかければ目安が得られる。1kWh当たり27円とすれば、図1の機種の場合、706kWh×27円≒1万9000円/年。高効率機種にするほど電気代は当然安くなるが、この値は前述した通り、1日18時間と長時間暖冷房することが前提なので要注意だ。