エコハウスの普及には、技術の進化よりも高性能な建材・設備の低価格化が重要と前真之・東京大学准教授は言う。1年にわたった連載の最終回は、「次世代への継承」を見据えた「真のエコハウス」の条件を解説する。

政府は「パリ協定」達成のために、住宅のCO2排出量を2013年から20年までに39%削減する目標を掲げている。しかし、これまで省エネの要であったエアコンや家電・給湯機の高効率化はもはや期待できず、外皮の高断熱化は依然として高価でなかなか浸透しない。
太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーの急速な普及は、地域のエネルギー自立を実現しつつある。一方で、昼間の系統への売電が過剰になりつつあり、買い取り価格の低下と相まって、普及に急ブレーキがかかっている。
省エネを取り巻く状況が八方塞がりに見える中、家づくりは何を目指すべきなのだろうか。最終回では、「真のエコハウス」の実現と普及について考えてみることにしよう。
エコハウスのゴールはどこ?
そもそもエコハウスは何を目指すのか。「地域それぞれの気候の中で暖かく、涼しく、わずかなエネルギーコストで楽しく暮らせる家」と、筆者は考えている。
「敷地に降り注ぐ太陽エネルギー」で「1年中の生活を支えること」ができれば、石炭火力や原子力といった社会的負担が大きい電源に頼らずに済む。本連載で取り上げた話題を中心に、年間を通してエネルギー自立を実現する真のエコハウスに求められる要素を図1にまとめてみた。
太陽光発電
- 太陽光発電は、従来のように売電量の最大化を目指してむやみに大きなパネルを載せると発電抑制がかかる時代に。ほどほどの発電量とするのが現実的
▶ Q5.太陽光発電は売電で万々歳? - 自家消費を優先して太陽光発電の容量を決めるのが肝心。パネルの傾斜角を大きくすると太陽高度が低く需給が逼迫する冬の発電量が増やせる
- 車を電気自動車(EV)にして太陽光発電で充電すれば、移動まで含めたゼロエミッションが実現できる。EVを家庭用の蓄電池として使うV2H(ビークル・トゥ・ホーム)にすれば、非常時も普段通りの生活が可能!
▶ Q11.蓄電池で停電対策は万全?
寒さ対策(断熱)
- 外皮の断熱は、冬はもちろん夏にも有効。「HEAT20 G2」(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会の外皮グレード)レベルが1つの目安
▶ Q3.断熱2倍なら暖房費は半分? - 気密の確保は、快適性と暖冷房負荷の低減のために絶対不可欠
- 冬にできるだけ多くの日射熱取得を促し、無暖房を実現できれば真のゼロエネに
▶ Q4.UA値さえ小さければ暖かい家?
▶ Q6.ZEHが増えれば発電所はいらない? - 冬の昼間の日射を吸熱して夜間に放熱する蓄熱を活用すれば室温が安定。無暖房でも快適な環境が実現できるようになる
暑さ対策
- 開口部の日射遮蔽も忘れずに。朝日・夕日が直撃する東・西面は特に注意が必要
▶ Q7.冬暖かい家は夏も涼しい?
設備
- エアコンの効率化は頭打ち&家電の省エネ性アップも望み薄であることを前提に計画を
▶ Q8.エアコンを買い替えれば節電に?
▶ Q10.最新家電ならどれでも省エネ? - 全館空調はもはや、暑さが増す夏の必需品。ヒートポンプ効率のスイートスポットを活用することで、家全体の暖冷房を高効率化できる
▶ Q9.全館空調は浪エネだから広まらない? - 第一種換気方式で高性能な集じんフィルターを採用すれば、花粉やPM2.5など外気汚染にも対応できる
- 冬に室内の乾燥を和らげ、夏の冷房顕潜熱負荷を低減させる全熱交換換気がより重要に
外観デザイン・プラン計画
- 温暖化の深刻化による風害・水害対策を強化した屋根や軒、庇の設計もより重要に
- カーシェアにすれば、車庫の面積が大幅に削減可能。外構の緑化などが充実して街並みも魅力的になる
- 建物高さや屋根形状を工夫し、隣の敷地の日当たりにも配慮しよう
- テレワーク普及による在宅勤務を見越して、ゆとりある部屋構成にしておくことも1つの手当てに
制度による後押し
- 全ての住宅で十分な外皮・省エネ性能を確保するためには、省エネ義務化によって高性能な建材・設備の低廉化を促していくことが必要
▶ Q1.省エネの義務化なんか必要ないよね?
▶ Q2.省エネ法適合は高くつく?
