業務報酬は設計者にとって悩ましい問題だ。公共の仕事であっても、国の基準に満たない報酬額で多くの設計者が仕事を受ける。監理料を巡って横浜市と対立する山本理顕氏は、設計者の働きを低く見積もる風潮に憤る。
山本理顕設計工場を主宰する山本理顕氏は、怒気をはらんだ声でこう訴える。「『学校建築は標準図を基に教室を並べる設計なので、監理には手間がかからない』と横浜市は言う。それはとんでもない。100年使う建物を完璧な品質で引き渡すには、監理に大変な手間がかかる」
山本氏は、設計・監理を手掛け、2018年5月に完成した横浜市立子安小学校の監理料を巡って現在、市と対立している〔写真1、2〕。
同校は、プレキャストコンクリート(PCa)工法の柱・梁が端正な外観の校舎だ。市や地域からは好意的に受け入れられた。しかし、山本事務所は同校新築工事の17年度監理料をいまだ回収していない。「市が提示した委託金額4000万円では、山本事務所が考える監理はできない」と山本氏は言う。
監理料4000万円は供託に
市は16年度に、「非常駐の一般監理での依頼」として、17年度監理料を4000万円と算出。山本事務所に提示していた。山本事務所は17年2月、市に対して当時の業務報酬基準である告示15号による試算で監理料が約9000万円になると訴えた。また、市が提示した4000万円を旧告示15号に照らして、「業務量は4505人・時間。同業務量で想定される建物規模は4850m2」と試算した。山本事務所は子安小学校の建物規模を1万5562m2としている。
一方で市は、17年4月3日付の契約締結を理由に、17年度監理料の引き上げを認めない方針だ。4000万円は既に市法務局に供託している。
山本氏は、「報酬は設計者と発注者の協議で決めるべきだ。『行政の命令に従うのが設計者の役割』という見方は納得できない」と話す。なぜ、事態はこじれたのか。背景には設計者と発注者の間に横たわる「業務と報酬」に関する認識の隔たりがある。
すれ違いの原因を探るため、まずは同校の移転新築計画の経緯を遡ってみよう〔図1〕。
2015年 |
1月 |
「子安小学校移転新築工事に伴う設計業務委託プロポーザル」公募 |
4月 |
設計業務委託契約を締結。基本設計を開始 |
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2016年 |
4月 |
4月から実施設計を開始 |
2017年 |
1月 |
工事監理業務を開始 |
2月 |
横浜市と監理契約について打ち合わせ。17年度の監理料について、「市の提示した4000万円では業務ができないこと」を伝える |
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3月 |
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8月 |
17年度監理業務委託契約を締結。契約の締結日は同年4月3日付とする |
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2018年 |
3月 |
算定見直しを前提として契約した17年度監理料について、市は「契約済みだから遡及して適用できない」と山本事務所に伝える |
4月 |
市が「教育施設の工事監理委託における委託料」の算定基準を改訂 |
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5月 |
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11月 |
市の建築局の担当者が山本事務所に対し、「17年度監理料を18年度基準で試算すると6700万円になる」と伝える。市は、「17年度監理料の契約に新しい算定基準を遡及して適用できない」と説明。 |
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12月 |
17年度監理料について山本事務所が追加監理料(6700万円から市の提示額4000万円を引いた2700万円)の請求書を市に提出 |
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2019年 |
1月 |
市から「17年度監理料は確定契約なので、契約外の支払いはできない」との回答書が届く |