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ITC
中国初の本格的TOD

 中国初の本格的なTODとして注目を集めているのが、広東省広州市東部の増城区で建設が進む「凱達爾(カイダール)枢紐国際広場(Cadre International TOD Center、以下ITC)」(「公共交通網強化でさらなる成長へ」の写真)だ。2棟のツインタワーとその低層部がインターシティー(都市間鉄道)をまたぎ、インターシティーと地下鉄の新トウ駅、商業施設、オフィス、ホテル、SOHOから成る複合施設だ。広東省、広州市、広州市増城区の3政府が、重点プロジェクトに指定している。

民間企業がTODを推進

 ITCは、大規模開発の経験がない民間企業が、市政府や国営企業の鉄道会社などを説得して実現したものだ〔図4、5、写真1〕。

〔図4〕鉄道を包み込む複合施設
〔図4〕鉄道を包み込む複合施設
凱達爾枢紐国際広場(ITC)の断面図。駅、商業施設、ホテル、オフィスの複合施設。「枢紐」は「ハブ」を意味する。2019年9月のインターシティー開通以降、各施設を段階的に開業していく予定だ(資料:日建設計)
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〔図5〕複数の公共交通計画を建築で結ぶ
〔図5〕複数の公共交通計画を建築で結ぶ
中央の赤い三角形状の土地にITCがあり、地下鉄4線、高速鉄道3線、インターシティー2線の乗り換えが可能な交通ハブとなる(資料:日建設計)
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〔写真1〕アーバンコアで動線を集約・分散
〔写真1〕アーバンコアで動線を集約・分散
ITC中央北側に設ける「アーバンコア」建設の様子。地下駐車場、地下鉄、駅上部の施設への垂直動線を集約する。19年3月に撮影。明快で分かりやすい動線を目指す。上部は展望デッキになっている(写真:日経アーキテクチュア)
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 ITCの事業主は、深セン市に本社を置く深セン市凱達爾(カイダール)集団。主な事業はスマート交通技術の開発や不動産投資などだ。ITCの敷地近くで、08年に集合住宅を開発。その近くで三角形状の土地を取得し、新しい集合住宅の開発を検討していた11年ごろ、地下鉄や高速鉄道、インターシティーの建設計画を知った。

 凱達爾集団の常務副総裁を務める陳漫寧氏は、「複数の公共交通が増城区を通る計画を知り、交通ハブが必要だと考えた。計画当時、敷地周辺の開発は、中心市街地に比べて遅れていた。何か大きなきっかけをつくり、周辺エリアの発展を促進したいと考えた」と、振り返る。

深セン市凱達爾集団常務副総裁の陳漫寧(Dion Chen)氏(写真:日経アーキテクチュア)
深セン市凱達爾集団常務副総裁の陳漫寧(Dion Chen)氏(写真:日経アーキテクチュア)
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 中国でTODが今ほど知られる前のことで、市政府や複数の鉄道会社などを説得するのは容易でなかった。法規制の壁もあった。中国では、線路の両側30mに空地を設けるよう法で定められている。当初、線路と駅を巻き込む複合開発の案を、鉄道会社などはなかなか受け入れなかった。凱達爾は鉄道関係施設の工事の一部を費用負担し、複合施設の一部を無償でインターシティーや国営鉄道会社、警察署などに譲渡することを提案。メリットを明示することで、関係者の合意を得た。

鉄道を取り込む提案で勝利

 凱達爾が設計を依頼したのは日建設計だ。決め手になったのは、鉄道を建物にどう取り込むか、というアプローチだった。ほかにも複数の設計事務所に案の作成を依頼したが、いずれも鉄道をどう避けるか、という考え方だったという。陳氏は「敷地を横切る鉄道をネガティブに捉えず、鉄道を建築に取り込む発想でITCを特徴的なものにした」と評価する。

 線路両側に必要な空地は、吹き抜けでつながる歩行者ネットワークの空間とした。インターシティーの駅上部と両側は、屋外テラスを階段状に重ねている。緑化した散策路や展望デッキを設けるなど、にぎわいを生む空間になることを狙う。インターシティーのホーム両側に設けた幅15mのデッキは、ITCの北側に新設される駅や、周辺に新築される商業施設などとつないでいく計画だ。

 16年10月に着工し、19年9月末には、インターシティーの穂莞深線が開通予定。ホームなどの工事を急いでいる〔写真2、図6〕。19年末に低層部の商業施設が、20年末に中層部にホテルが開業する予定だ。

〔写真2〕鉄道関係施設の工事を先行
2019年9月に開通予定のインターシティー関係施設の工事の様子。写真の中央がインターシティーのホーム(写真:日経アーキテクチュア)
2019年9月に開通予定のインターシティー関係施設の工事の様子。写真の中央がインターシティーのホーム(写真:日経アーキテクチュア)
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歩行空間の吹き抜け。右の壁の裏にインターシティーのホームがある(写真:日経アーキテクチュア)
歩行空間の吹き抜け。右の壁の裏にインターシティーのホームがある(写真:日経アーキテクチュア)
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〔図6〕屋上テラスを緑化
〔図6〕屋上テラスを緑化
線路を包むツインタワーの裾野は、広州周辺の自然景観をモチーフに、緑の谷をイメージさせる緑化を施す。都市化が進むこのエリアで、空中に浮かぶオアシスとなることを目指す(資料:日建設計)
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 ITCの考え方は大湾区の広域戦略にも合致した。着工後の17年には広州市の新空港開港の計画が発表された。完成すれば、香港国際空港、深セン宝安国際空港、広州白雲国際空港、広州新空港の4つをITCがつなぐことになる。今後の発展を期待して、ITCの近隣に工場を建設中の企業もある。

幅50mの歩行空間でにぎわい

 公共交通機関を中心とした都市開発が進む中国では、歩行者ネットワークの形成が個々の都市の発展を左右する。広東省深セン市の中心部から2.5kmほど西に、活気あふれる電気街がある。中国のシリコンバレーと呼ばれる深セン市の中でも特に多くの人が集まるこの電気街を特徴付けるのは、南北に貫く「華強北路」。歩行者専用の道路だ〔写真3〕。

〔写真3〕若者や家族連れが集まる歩行空間
(写真:日経アーキテクチュア)
(写真:日経アーキテクチュア)
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(写真:日経アーキテクチュア)
(写真:日経アーキテクチュア)
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上の写真2点は深セン市内の電気街を貫く歩行者専用道路、華強北路
深セン市内の地図。2020年までに新たに地下鉄8路線が開通し、計16路線のネットワークへと強化される予定だ(資料:日経アーキテクチュア)
深セン市内の地図。2020年までに新たに地下鉄8路線が開通し、計16路線のネットワークへと強化される予定だ(資料:日経アーキテクチュア)
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 植栽があふれる広場のような歩行空間が1kmにも渡り続く。2017年に整備されたこの道は、昼夜問わず、若者や家族連れでにぎわっていた。

地上と地下のネットワーク

 華強北路は、地下鉄4線3駅や地下商店街につながる出入り口があちこちにのぞく。出入り口の斜面と上部は、植栽で覆われていたり、階段を設けた展望デッキなどがあったりと、その周りに自然と人々が集う。側面をデジタルサイネージとしているものもあり、電気街らしさを演出している。道路上に設置された仮設店舗やイベントスペースも活気の源となっている。

 深セン市内中心部では、電柱を地下化している一方で、交差点や地下出入り口には独立したカメラやセンサーが多数設置されている。市は、これらを用いた実証実験などを、交通管制や防犯など、今後のスマートシティーに生かす狙いだ。

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