「新・魚沼の家」は、施工を手掛けたフラワーホーム社長の自邸だ。豪雪地にあって同社初のZEHに挑戦。設計者の伊礼智氏は、高い省エネ性能を確保しつつリビングと屋外デッキがつながる空間を生み出した。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)をはじめとする高断熱・高気密の住宅といえば、外に閉じた箱形建物のイメージが強いかもしれない。寒冷地の住宅ならなおさらだ。しかし、国内有数の豪雪地域に立つ「新・魚沼の家」(新潟県十日町市)はひと味違う。設計者の伊礼智氏(伊礼智設計室代表、東京都豊島区)は、ZEHの基準を満たしつつ、屋外デッキと室内のつながりを重視した空間を生み出した。
正攻法を積み上げて高性能化
「引き込むと全開する木製サッシを介して、内外の空間を一体化させた。窓枠が額縁となって、外に広がる緑の田園風景を切り取るように意識した」と伊礼氏は話す〔写真1〕。
建て主の藤田満氏は、地域産材を用いた家づくりを得意とする工務店、フラワーホームの社長を務めている。ZEHは、同社初の試みだ。
設計者、伊礼氏の家づくりに対する考え方を象徴するのが、建物のボリューム設定だ。正方形平面の総2階部分と下屋を組み合わせた建物の階高は、1階と2階いずれも2350mmに抑えている。天井高は低めのほうが居心地が良いという考え方を反映した寸法だ。室内の容積を小さめに抑えたことは、消費エネルギーの削減にも結び付く。
一方、2mの積雪量という想定で耐震等級2相当の耐震性を確保するために、平面計画は4畳半を基本単位に構成した〔写真2、3〕。「4畳半は、生活の場として成り立つ和の最小限空間。ダイニングテーブルやストーブコーナーのソファもしっくり収まる」(伊礼氏)
断熱性能については、HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)のG2グレードを目標に据えた。この地域のG2グレードの外皮平均熱貫流率(UA値)は0.28W/m2Kだ。この数値を達成できるように具体的な断熱仕様を設定した。例えば、屋根と外壁にはそれぞれ340mmと240mmの厚さでポリエステル断熱材を施した。
断熱面で弱点となる開口部は、場所に応じて2種類のサッシを使い分けた。外の景観を楽しむことを重視した1階ダイニングなどには、高断熱・高気密タイプの片引き木製サッシを使用。その他の小さな開口部には、断熱性と経済性を優先してトリプルガラスの樹脂サッシを配している。
高断熱化を前提に、暖冷房も最小限にとどめた。冬は1階のまきストーブだけで過ごし、夏の冷房はロフトに設けたエアコン1台で賄っている。