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 岩手県住田町の「大船渡消防署住田分署」は、全国でも珍しい木造の消防署だ。2016年の設計プロポーザルでSALHAUS(サルハウス)が選ばれ、18年に竣工した〔写真1〕。同町建設課の田畑耕太郎氏はプロポーザルを企画し、実施要領をゼロから練った。15年に入庁してすぐのことだ。

〔写真1〕「木質の中心市街地」を目指す
〔写真1〕「木質の中心市街地」を目指す
住田町は人口5500人弱。林業の町として「木質の中心市街地」の形成を目指す。田畑氏の右が、14年に竣工した木造の役場庁舎で、背後が「大船渡消防署住田分署」(写真:伊藤 美希子)
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 田畑氏は仮設住宅団地での支援活動のため、東京大学大学院2年の夏に初めて住田町を訪れ、当時の町長から、小自治体で働くことの意義と面白さを聞いた。東日本大震災の被災地の後方支援に当たる同町で役に立ちたいと思ったのも入庁の理由だ。同町建設課の職員は現在9人。建築士資格を持つのは田畑氏のみだ。

プロポ後に議論の場を継続

 住田分署のプロポーザルの実施方針に記した「今後、役場新庁舎の周辺に『木質の中心市街地』を形成していく」という一文には、田畑氏の強い思いが込められている。

 住田町では行政施設が次々に耐用年数を迎えつつある。それらの建て替え・集約を図るなか、町内全域が都市計画区域外で青写真がないことから、担当課の異なる施設が整合性なく整備される可能性があった。

 そうした事態を避けるため、大学院時代の恩師、大月敏雄東大教授にプロポーザルの審査委員として助言を仰いだ。大月教授が「木質の中心市街地」という言葉を提案、これを実施要領の冒頭に盛り込んだ。

 住田分署は延べ面積の条件が約800m2だったが、中心市街地で中核施設の一翼を担う。「小規模でも、町の骨格をつくる建物。今後の整備の布石にしたかった」と田畑氏。

 プロポーザル後は、住田分署デザイン会議という議論の場を運営。メンバーは、審査委員の学識経験者や、役場の各課から集まった職員など。各課が抱える建設事業の共有の場であると同時に、審査委員に最後までプロジェクトに関わってもらうための仕組みだ。田畑氏は「良き前例をつくり続けることが自分のミッション」と、今も全力投球を続ける。


たはた こうたろう:1988年秋田県生まれ。2013年東京理科大学工学部卒業。15年東京大学大学院修士課程修了、住田町入庁。16年開催の「大船渡消防署住田分署新築工事設計業務プロポーザル」に発注者側の主担当として従事