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建築以外も「デザイン」する

 設計事務所に求められている役割は、PM・CM業務やリニューアルのような具体的な仕事ばかりではない。プロジェクトの内容や目標自体を、発注者と伴走しながらつくり込んでいくような、漠然とした依頼もある。

 日建設計が設計を手掛けたTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)の新オフィスは、まさにそうした依頼に基づくプロジェクトだった。

 TRI-ADは、トヨタ自動車が18年3月に設立した自動運転ソフトウエアの開発を担う会社だ。同社は世界のトップエンジニアが働きたいと思えるオフィスを要望していた。しかし、プロジェクトのスタート時点では会社自体が存在しておらず、肝心のエンジニアもいない。「にもかかわらず、新オフィス稼働までのスケジュールは非常にタイトだった」。トヨタ自動車建築計画室の水野祥・第2グループ主幹はこう振り返る。

 そこで日建設計は、行動調査をベースに顧客にソリューションを提供する同社のNIKKEN ACTIVITY DESIGN lab(NAD)を通じて、TRI-ADの理念を確認しながら、それを体現するオフィスのコンセプトづくりから関わることになった。

 新オフィスの設計で重視したのは、会社やエンジニアの成長に併せて、エンジニア自ら主体的にオフィスを更新できる空間だ。NADの祖父江一宏シニアプロジェクトアーキテクトは、「我々つくり手側が想像し得ない使われ方に期待して、あえて余白を残した。ユーザーの能動性で進化し続けるオフィスになった」と手応えを口にする。新オフィスは19年7月から順次稼働している。

 三菱地所設計の清水執行役員は、「建物に付加価値を生み出すために、設計の前段階から設計事務所の力を借りたいという依頼が増えている」と話す。同社は、マーケティングやブランディングのサポート事業なども展開し、業務の幅を広げている。

 これまで見てきたように、市場の変化や多様化する発注者・社会のニーズに応えつつ、収益を上げていくには、「国内・新築・設計・監理」に頼る従来の設計事務所をアップデートする必要がありそうだ。次記事「奇策か王道か、あの会社の決断」から、新たな一手を繰り出す注目企業の戦略を探ろう。