2020年代を前に、過去10年間に注目された住宅の使われ方を検証しよう──。そう考えたときに頭に浮かぶのは、「交流」や「共有(シェア)」の新たな形に挑んだものばかりだった。「ヨコハマアパートメント」(背景の写真)や「シェア矢来町」は、プランの工夫により家族的な交流を生み出した第1世代だ。「つながり」「絆」といった言葉が世にあふれ出した頃、東日本大震災の仮設住宅でも交流が課題となった。震災後の設計では、「tetto」のように屋外を共有したり、「シェア金沢」のように多世代を混在させたりするなど、交流を長く持続させることへの試行錯誤が始まった。それら先駆的な住宅の“今”に学ぼう。

特集
「挑戦の家」その後
交流型プラン、10年の変化と進化
目次
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アトリエ広場が10年経て地域交流にシフト
クリエーター×半屋外空間
竣工から10年。庭のような開放感を持つ共用の土間空間は、アーティストの拠点となる“アトリエ広場”から、地域交流の場へと移行してきた。入居者の想像力から生まれる多様性を、大らかな共用部が受け止めている。
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家族規模の安心感で高稼働率を維持
単身者×コモンスペース
既存住宅を改修したシェアハウスが主流だったなか、2012年に竣工した「シェア矢来町(やらいちょう)」は、新築シェアハウスの先駆けだ。個室7室という規模が、家族のようなつながりを育む。課題は近隣との関係づくりだ。
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サポセンが活性化した木造仮設
高齢被災者×屋根付きデッキ
岩手県遠野市に残る仮設住宅だ。東日本大震災後につくられた仮設の中でも、コミュ二ティー形成の点で評価が高い。サポートセンターを核に、屋根付きデッキで住戸をつなげることにより、高齢者を中心に交流の輪が生まれた。
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里山活用は限定的も“自然体”が競争力に
郊外派×広場
オーナー所有の里山や住居も含めて、使い方は入居者の自主性に委ねる。作り手側の想定した交流を押し付けるのではなく、あくまでも自然体を目指した。活気の浮き沈みを受け入れながら緩やかな継続性を見据える。
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“人づくり”で転換目指す ごちゃ混ぜの街
多世代・多機能×混在配置
「日本版CCRC」の先行例として注目を集めた「Share(シェア)金沢」。障害者も含めた多世代が「ごちゃ混ぜ」になって共生する。街開きから5年の間で住民が入れ替わるなどし、次のフェーズに向けた転換期を迎えている。
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持続する交流、5つのカギ
「人の変化」に伴うリスクが成否分ける
賃貸住宅の選択肢の一つとして定着した交流型の住まい。いまや、若者だけのものではなくなった。前記事までに取り上げた住宅の「挑戦」と「その後」を手掛かりに、今後の住宅設計へのヒントを探る。