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2019年6月に施行された改正建築基準法。規制の緩和により、戦前に建てられた民家の活用の幅は大きく広がった。一方で、設計者の自主判断に委ねられる部分は増えており、リスクを認識する必要がある。

 2019年6月に施行された改正建築基準法の柱の1つに、既存ストックの活用がある。

 改正により、地上3階建て以下で200m2未満の建物をグループホームなどの特殊建築物に用途変更する際に、柱、梁といった主要構造部を耐火構造にする改修を不要とした。

 改正以前は、主要構造部に石こうボードを張るなど大規模な工事が必要になり、それに伴って莫大なコストがかかるため空き家の転用が困難だった。

 さらに、建物の用途を変更して特殊建築物にする場合、確認申請が不要な規模を見直した。従前は、変更後の用途の床面積が100m2以下の場合に不要としていたが、200m2以下までに拡大した。

 国土交通省によると、全国の戸建て住宅ストックの約9割が200m2未満だという。改正により、空き家をグループホームや宿泊施設、飲食店などに転用する動きはさらに加速するだろう。

改修後の安全性は当然必要

 戦前に建てられた民家であっても、一定の条件を満たしていれば、法改正の恩恵を受けることができる(戦前竣工の建築物の既存不適格の判断については次号の「リノベーションの法規Q&A」で詳述する)。

 注意すべきは、既存不適格の4号建築物を用途変更する際には原則、用途規制や耐火、避難などの規定が遡及適用されることだ。これらの規定は確認申請が不要な用途変更であっても準用される。

 しかし、意外にも思えるが、準用される規定の中には、法20条の構造耐力に関する規定は含まれない。つまり、用途変更時に構造耐力を現行法規に合わせる法的義務はないのだ。これは、用途変更は構造の荷重条件内で行うことが当然と考えられていたという理由によるようだ。

 とはいえ、建基法施行令では、用途ごとに床構造計算などで用いる数値を示しており、仮に用途変更時に積載荷重が増加する場合には、固定荷重を減らすといった対処が必要だろう。国土交通省建築指導課の高木直人・建築設計環境適正化推進官は、「既存不適格建築物を用途変更する際は、(法的義務はなくても)耐震診断を実施して倒壊の危険性がないというレベルまで安全性を確保することが望ましい」と言う。

用途は特定行政庁が判断

 当然のことながら、戦前に建てられた民家には建築確認済み証や完了検査済み証がない。そもそも用途が曖昧なものが多く存在する。建設当時は商業施設や下宿として活用されていたものでも、現在は住宅として活用されている場合がある。

 このような建物の用途は、どのように判断されるのか。高木建築設計環境適正化推進官は、「改修直前の使われ方を見て、用途を判断する」と説明する〔図1〕。

〔図1〕古民家の「用途」はどう決めるのか
〔図1〕古民家の「用途」はどう決めるのか
建設時は旅館や店舗として活用されていた古民家でも、時代と共に活用方法が変わって、現在は住宅として活用されているものが多い。こういった古民家の従前の用途はどう決まるのか。国土交通省建築指導課に聞いた(資料:国土交通省への取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 つまり、建設当時は今で言う特殊建築物に該当する下宿や物販店舗として活用されていた建物でも、用途変更時に住宅として活用されていれば、建物は「住宅」として扱われる。

 従前の用途を勝手に判断して「用途変更に当たらないから確認申請の必要なし」と考えてはならない。用途の判断は特定行政庁が行うので、古民家を活用する際には事前に特定行政庁に判断を仰ぐ必要がある。