⽵中⼯務店の⽶津正⾂⽒は設計で、都市と建築、ディテールのつながりを重視している。軒をはじめ⾬仕舞いに直結する部位を、周辺の都市のスケールとつなぐ要素として活⽤する。
建築の設計とディテールをどう位置付けていますか。
建築の設計は、プロジェクトごとに固有のテーマを⾒つけ出し、育てていく作業だと考えています。ディテールも、そこでのテーマに沿ったものとしたい。結果として特別な納まりになることはあっても、ディテールそのものが独⽴した表現にならないように⼼掛けています。
ディテールは、屋根と壁がぶつかる場所や、内部と外部の境界、部材同⼠の接点に⽣まれます。それぞれの建物でテーマとなる固有の境界条件を⾒つけ出して空間化するような設計の仕⽅は、ディテールを考えるのとどこか連続したものを感じます。
全体と部分を、スケールを横断して考え、都市と建築とディテールがつながったとき、うまくいったと感じます。その際、建築は都市の⼀部であり、拡張されたディテールともいえ、説得⼒を持つと思います。
宝ホールディングス歴史記念館(2017年)
縦どいで街並みになじませる
京都市内の景観規制がある場所に立つ企業美術館ですね。
ここでは、31m⾓の正⽅形平⾯を3層重ね、しっくい調塗装で外壁を⽩く仕上げました。近景ではフラットルーフに⾒えますが、3⼨勾配の⽅(宝)形屋根を架けています。4つの立⾯をいずれも正⾯と位置付け、⽴ち⽅で凛(りん)とした企業アイデンティティーを表しています。
外壁は2、3階のコンクリートの打ち継ぎ⽬地を消し、可能な限り抽象化しています。晴天の⽇は軒庇や樹⽊の影を映し出す背景となり、曇天の⽇は艶を落とした⽩壁が空に溶け込み輪郭が消え、周囲と調和した存在になるように配慮しました〔写真1〕。
軒の出は1300mm。軒下に建物を⼀周する形でハイサイドライトを設け、屋根と外壁の縁を切りました。採光や⾃然換気などの機能を影の中に収めるとともに、⼤きなボリュームを感じさせない⼯夫の1つです。
縦どいは正⾯以外の3⾯に1本ずつ配置しています。外観に縦どいが現れない納まりも可能ですが、外部に露出させるほうが⽔仕舞いの上では健全です。縦どいがあるほうが、しっくいの蔵が残る街並みになじむのではないかとも考えました。⾬量や流れる距離から、軒どいの⽔勾配は250分の1とし、縦どいの位置は各⽴⾯の真ん中からずらしています。
- ディテールだけに着目せずに、スケールの異なる都市と建築と納まりをつなげる
- 軒やといは基本に忠実に納めながらも、周辺の風景や文脈とつなげる意匠上の要素に
- 水盤は、水処理の負荷や、温度の上昇による藻の発生も踏まえて、水深を決定