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建設産業への若者の入職と定着を促す「建設版 働き方改革」の第1ステップは、「待遇良く働きたい」と願う「生存安楽の欲求」を満たすことだ。そのために、まずは関連する法制度を確実に理解して、労働時間を適正に把握することが重要だ。そのうえで、「変形労働時間制」などを取り入れ、年間の総労働時間を減らす。併せて、1人当たりの労働時間を減らしても、必要な業務量をこなせるような工夫として多能工の育成が有効である。(日経アーキテクチュア)

 建設産業の働き方改革とは、働きやすさとやりがいを兼ね備えた「働きがい」のある職場をつくることだ。

 この連載では、心理学者のアブラハム・マズローが唱えた「欲求5段階説」に基づいて、働きがいのある職場をつくる実践手法を解説する。

 今回は、第1段階の「生理的欲求(生命を維持したい)」を満たすための働きやすい職場づくりを考える。生理的欲求とは、「待遇良く働きたい」と願う生存安楽の欲求だ。

 この欲求を満たすには、2019年に施行された働き方改革関連法や労働基準法、労基法36条に基づく労使協定(36協定)など、関連する法制度の順守が不可欠だ。今回は、そうした法制度に定められている労働時間について説明する。

始業前の朝礼は労働時間

 法定労働時間は1日8時間、1週40時間。ただし、時間外・休日労働協定(36協定)の範囲内なら、適法な時間外・休日労働が可能だ。

 働き方改革関連法では、原則として時間外労働の上限を1カ月45時間、1年間360時間と定めている。ただし、臨時的な特別の事情があり、労使間で36協定を締結した場合は「年720時間以内」などと上限を変更できる〔図1〕。建設事業については、24年4月から適用される。

〔図1〕36協定で時間外労働の延長可能
〔図1〕36協定で時間外労働の延長可能
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 労働時間とは、使用者の指揮監督下にある時間を指す。使用者の明示的・黙示的な指示によって労働者が業務に従事する時間だ〔図2〕。建設産業で、慣例的に業務外とされていた始業前の朝礼や体操、業務後の勉強会も、労働時間とみなされる。

〔図2〕使用者の指揮監督下にあれば労働時間に
〔図2〕使用者の指揮監督下にあれば労働時間に
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 移動時間はどうか。自宅と現場の往復は通勤時間であり、労働時間ではない。つまり、自宅から現場に直行し、業務終了後に現場から自宅に直帰する場合、現場に着いてから現場を出るまでが労働時間だ〔図3〕。

〔図3〕移動は労働時間ではない
〔図3〕移動は労働時間ではない
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 一方、出社後に社用車を使って会社と現場の間を往復した場合は、労働時間となる。また、自宅や寮から1台の社用車に数人が乗り合わせて現場に向かう場合、運転手は労働時間に当たるが、同乗者は通勤時間となる。現場にいる時間だけが労働時間だと解釈して、賃金を算出している会社は少なくない。現場への移動の仕方によっては、法違反になる可能性もある。