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若手が仕事にやりがいを感じられなければ、すぐに会社を辞めてしまうだろう。職場に定着させるには、仕事への主体性や創造性、情熱を引き出す環境づくりが重要だ。上司や同僚との信頼関係で生まれる「心の安全基地」を構築することがその第一歩となる。職場を安全基地に変えるには、それぞれの個性に応じた接し方をする必要がある。若手が「安全基地内にいる」と思えば、困難な仕事に立ち向かい、自身の成長を実感できるはずだ。(日経アーキテクチュア)

 「建設版 働き方改革」とは、働きやすさとやりがいを備えた「働きがい」のある職場を実現することだ。

 前回までは、心理学者のアブラハム・マズローが唱えた欲求5段階説に基づいて、働きやすい職場のつくり方を説明した。今回から、やりがいのある職場の在り方を考える。

 マズローによると、第1段階の生理的な欲求(待遇良く働きたい)と、第2段階の安全の欲求(安全に、安心して、安定して働きたい)が満たされると、第3段階の「所属と愛の欲求」が現れる。職場でいえば、同僚と「仲良く働きたい」と思う欲求だ。この欲求に応えるには、職場が「安全基地」となり、社員の心理的な安全性を高められるようにすることが重要だ。

 では、安全基地とは何か。例えば、建設現場の担当者が新しい技術を使いたいと思ったとしよう。上司に相談した際に、「思い切ってやってみろ。うまくいかなくても、最大限フォローする」と言われれば、担当者は果敢に挑戦できる。たとえ失敗しても、担当者は成長し、やる気も向上する。このような場合、担当者にとって上司が安全基地の役割を果たしている。

 社員は、上司との信頼関係で生まれる「心の安全基地」によって、新しい仕事や困難な仕事に立ち向かえるようになる。万一の場合は、上司が支えてくれるという確信があればこそ、仕事にまい進できるのだ。

 このように、自分は安全基地内にいると感じる気持ちを「心理的安全性」という。社員一人ひとりが安心して、自分らしく働けることだ。自分らしく働ける場とは、自己認識、自己開示、自己表現できる環境を指す。

 世界的に著名な経営コンサルタント、ゲイリー・ハメルは自著「経営は何をすべきか」で、能力のピラミッドについて解説している。その際に、「従順」「勤勉」「専門性」「主体性」「創造性」「情熱」の順で、6段階のレベルを設定している。

 心理的安全性が高まると、レベル4の主体性、レベル5の創造性、レベル6の情熱を、それぞれ引き出せるようになる。反対に、心理的安全性が低いと、レベル1の従順、レベル2の勤勉、レベル3の専門性といったレベルにまでしか到達できない。

 生産性に寄与する心理的安全性が高い建設会社は少ない。むしろ、低い建設会社が多い。心理的安全性を高めるには、個人面談や交換日誌、懇親会、慰安旅行などが有効だ。書籍「建設版 働き方改革実践マニュアル」では、その実践方法を詳述しているので参考にしてほしい。

社員の個性を把握する工夫

 心理的安全性を高め、安全基地を構築するには、社員の個性に応じた接し方をすることも重要だ。

 例えば、書籍「類人猿分類公式マニュアル2.0 人間関係に必要な知恵はすべて類人猿に学んだ」(Team GATHER Project著、夜間飛行発行)の「類人猿診断」は参考になる。人の型をオランウータンやゴリラなど4つのタイプに分ける診断法だ。この診断法を用いると、社員の個性を把握しやすい。

 オランウータン型(思考・納得型)は、静かに物事を見つめ、理解し、納得するまで頑張れる人だ。ゴリラ型(協調・尊重型)は、相手と対等に向き合い、いつも控えめで秩序を守る物静かな人が該当する。チンパンジー型(勝利・行動型)は、自分の直感に従い、前進するパワフルな人。ボノボ型(感覚・楽天型)は、自分の気持ちを率直に表現する無邪気な人に相当する。

 さまざまなタイプの相手にどう対応すれば、心理的安全性を高められるか、筆者なりの視点で一覧表にまとめたのが図1だ。

〔図1〕メンバーのタイプに応じて接し方を変える
〔図1〕メンバーのタイプに応じて接し方を変える
(資料:書籍「類人猿分類公式マニュアル2.0 人間関係に必要な知恵はすべて類人猿に学んだ」を参考に筆者が作成)
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 大切なのは、相手のタイプに応じて伝え方や接し方を変えることだ。相手のことを考えた表現を選択していくと職場が安全基地に変わり、社員一人ひとりが安心して、安全にその空間を共有できるようになる。