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小松マテーレの「カボコーマ・ストランドロッド」が2019年11月にJIS化された。建築分野におけるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の普及に弾みが付きそうだ。補強材としてではなく、主要構造部に適用する試みも活発になってきた。

ザワつく材料図鑑 ❹

CFRP

炭素繊維を樹脂で強化した素材で、Carbon Fiber Reinforced Plasticの略。比重は鉄の4分の1、比強度は鉄の10倍にもなる。熱を加えると軟化し、冷却すると固化する熱可塑性樹脂を用いた材料の開発が進んでいる

 群馬県富岡市で2019年9月5日にオープンした「おかって市場」は、市の景観重要建造物である「富岡倉庫」を耐震改修して再生した店舗だ。

 特徴的なのが、その構造計画。木造平屋の建物内に鉄骨のラーメン構造を入れ込むイメージだ。地中に強固な基礎梁を新設して、屋内に100mm角の鉄骨ムク材の柱を立ち上げ、梁間にはブレースとしてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)のロッドを「あやとり」のように張り巡らせた〔写真1〕。

〔写真1〕ブレースにCFRPを採用
〔写真1〕ブレースにCFRPを採用
CFRP で耐震改修した富岡倉庫の内観。3棟のうち県道沿いに立つ「3号倉庫」の小屋組み部分に適用した。改修設計は、隈研吾建築都市設計事務所が担当した(写真:安川 千秋)
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 ブレースに用いた直径9mmのCFRPロッドは、素材メーカーの小松マテーレ(石川県能美市)と金沢工業大学革新複合材料研究開発センターが共同で開発したカボコーマ・ストランドロッド(以下、カボコーマ)。炭素繊維の芯をガラス繊維で被覆して線材とし、7本をより合わせて熱可塑性樹脂を含浸させた製品だ。

 比重が鉄の4分の1と軽量で、巻いた状態で搬入できるため、鉄筋ブレースと比べて施工性に優れる。引っ張りに強く、同じ強度で鉄よりも直径を小さくできる。たわみが小さく、耐食性・耐久性に優れ、屋外でも採用しやすい。

初のJIS化で普及に弾み

 カボコーマは19年11月20日、「耐震補強用引張材―炭素繊維複合材料より線」(規格番号JISA5571)として、日本産業規格(JIS)に制定された。炭素繊維複合材料が耐震補強材としてJIS化されるのは初めて。これまで次世代建築材料として期待を受けつつも、なかなか芽が出なかったCFRPに、需要拡大のチャンスが巡ってきそうだ。

 同社はJIS化でカボコーマの採用例が増えると見込む。25年度までに合計15億円の売り上げを目指す。

 同社の奥谷晃宏取締役は「ただし、JIS制定はゴールではない」と話す。さらなる普及に向けて、カボコーマを用いた工法の開発に余念がない〔図1〕。その1つが、カボコーマをブレースに用いた木造住宅向けの耐震工法。21年度内の国土交通大臣認定取得を目指し、建築基準法に基づく性能評価を受ける予定だ。

〔図1〕カボコーマを用いた工法が続々
土壁の下地の小舞を竹ではなくカボコーマで組むことで、壁倍率3.3を超える耐力を実現した(写真:小松マテーレ)
土壁の下地の小舞を竹ではなくカボコーマで組むことで、壁倍率3.3を超える耐力を実現した(写真:小松マテーレ)
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カボコーマ・ストランドロッド(写真:小松マテーレ)
カボコーマ・ストランドロッド(写真:小松マテーレ)
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カボコーマを用いた木造住宅向けのブレース。国⼟交通⼤⾂の認定取得を⽬指し、建築基準法に基づく性能評価を受ける予定(写真:日経アーキテクチュア)
カボコーマを用いた木造住宅向けのブレース。国⼟交通⼤⾂の認定取得を⽬指し、建築基準法に基づく性能評価を受ける予定(写真:日経アーキテクチュア)
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軽い梁で増改築を容易に

 CFRPの用途は補強材にとどまらない。高い強度や軽さを生かし、主要構造部への適用を目指すのが大成建設だ。鉄骨の5分の1という重量を武器に、増改築に向くCFRPの梁「T-CFRP Beam(FR)」を開発した。

 建物にかかる荷重を抑えつつ増改築できる。部材を人力で運搬できるのも強みだ〔図2〕。2月18日に開設した同社技術センター内のミーティングスペースの屋根に初適用した。

〔図2〕軽さを生かして増改築に適用
シートを積層して成形したCFRPの梁を、大成建設技術センター内の建物に用いた。長さ23mの梁を10本、19mの梁を5本使用した(写真:2点とも日経アーキテクチュア)
シートを積層して成形したCFRPの梁を、大成建設技術センター内の建物に用いた。長さ23mの梁を10本、19mの梁を5本使用した(写真:2点とも日経アーキテクチュア)
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使い方(1)吹き抜けに床を増設
使い方(1)吹き抜けに床を増設
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使い方(2)屋上に床を増設
使い方(2)屋上に床を増設
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CFRPの梁の適用例。大型重機の搬入が難しい吹き抜けや屋上での増改築に効果的だ(資料:大成建設)

 部材は、炭素繊維に樹脂を含浸した厚さ0.25mmのシートを積層させて成形する。シートを構成する炭素繊維は2種類。石油や石炭を原料とし、剛性が高い「ピッチ系」と、ポリアクリロニトリルを原料とし、引張強度が高い「PAN系」だ。2種類のシートの比率や巻き方などで、部材の強度や剛性、形状を調整できる。

 主要構造部に用いるため、耐火性能も確保した。シートには180℃で硬化するエポキシ樹脂を含浸させているため、200℃近くになると形状を保持できない。鉄骨向けの耐火塗料は約250℃から効果を発揮するため、耐火被覆に使えない。

 そこで大成建設は、30分の耐火性能を持つ耐火被覆を2種類用意した。1つ目は、難燃処理を施した厚さ35mmの単板積層材(LVL)でCFRPを覆う方法だ。ただし、雨にさらされると、難燃処理に用いる薬剤が溶け出て十分な耐火性能を維持できないので、屋内などで使用する。

 雨がかりになる部位には、水を含んだ厚さ13mmのゲル状吸熱パックを2重に巻き付け、高耐久性木材で覆う。内側に火が侵入してきても、水が蒸発することで温度上昇を防ぐ。2種類の耐火被覆はいずれも、デザイン性に配慮して木材を現しとした。

 建物の吹き抜けに床を増設したり、ドローンなどを用いて屋上に床を増設したりと、改修・増築時の提案の幅が広がりそうだ。

軽さを生かして防振床にも

 大成建設のターゲットは主要構造部だけではない。航空機の内装などを製造するジャムコ(東京都立川市)と共同で、CFRPを用いた乾式の防振浮床工法も開発した〔図3〕。

〔図3〕乾式床の梁にも使える
CFRPを用いた乾式防振浮床の構成。梁は長さ6m、高さ250mm、重量約17kgだ(写真:日経アーキテクチュア)
CFRPを用いた乾式防振浮床の構成。梁は長さ6m、高さ250mm、重量約17kgだ(写真:日経アーキテクチュア)
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鉄骨梁との比較
鉄骨梁との比較
乾式防振浮床工法の構成を、鉄骨とCFRPで比較した(資料:大成建設の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 長尺のCFRP梁を用いて防振ゴムの支持点間隔を広げることで、高い遮音性能を確保する。防振ゴムの数を減らし、建物の梁の上など剛性の高い位置だけで支持できることなどが理由だ。実験では、低周波数帯域である63Hz帯で、一般的な乾式二重床よりも15dB以上低減できた。

 長尺の鉄骨梁で防振浮床工法を実現しようとすると、クレーンを用いなければ部材を運搬できず、大がかりな工事になってしまう。改修などで防振浮床工法を適用したくても、施工上の問題で断念するケースは少なくない。CFRPの梁なら、長さ6mで約17kg。1人でも楽に持ち運べるため、適用する現場を選ばない。

 大成建設技術センター都市基盤技術研究部環境研究室音・振動チームの田中ひかり副主任研究員は「部材は鉄骨よりもかなり高価だが、施工の手間が減るため、使える場面が出てくるとみている」と話す。

一体成形のパネルで高速施工

 強度が高くて軽く、比較的安価に大量生産できるCFRPのサンドイッチパネルがあれば、十分な耐力を備え、移設も容易にできる建物を実現できるのではないか──〔図4〕。

〔図4〕CFRPのパネルを用いた建物のイメージ
〔図4〕CFRPのパネルを用いた建物のイメージ
床や壁、天井などにCFRPのパネルを用い、施工の省力化を図る(資料:金沢工業大学COI研究推進機構)
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 冒頭で紹介したカボコーマ・ストランドロッドを、小松マテーレと共に世に送り出した金沢工業大学では、文部科学省が進める「革新的イノベーション創出プログラム(COI)」の下、建築向けのサンドイッチパネルの研究が進んでいる〔写真2〕。

〔写真2〕安く量産できるパネルを目指す
〔写真2〕安く量産できるパネルを目指す
大型サンドイッチパネルの試作品。金沢工業大学と大和ハウス工業、東レ、岐阜大学などが共同で開発を進めている(写真:金沢工業大学COI研究推進機構)
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 開発中のサンドイッチパネルは、CFRPでウレタンなどのコア材を挟み込んだもの。軽量で高い強度を持つのが持ち味だ。金沢工業大学COI研究推進機構でプロジェクトリーダーを務める大和ハウス工業の池端正一副理事は、「施工の省力化を図れる新しい工法を生み出したい」と研究の狙いについて語る。

 耐久性や耐火性能、遮音性などを確保しつつ、安く大量に製造できるようにするのが当面の課題だ。シートを型に入れ、樹脂を流し込んで硬化させて1枚ずつパネルを製造する従来の方法ではなく、連続して一体成形できるようにしなければ、安く量産することはできない。

 もう1つの課題は接合部。パネルをボルトで接合した場合、CFRPの強度が高すぎて地震時などにボルトが先に破断する恐れがあるなど、これまでの建築材料の延長では解決できない問題が出てくる。部材をかみ合わせて接続する「嵌合(かんごう)接合」など、様々な方法を試しているところだ。

 池端プロジェクトリーダーは言う。「CFRPのような新材料を、単純に既存の建築材料と置き換えようとするとコストなどで負けてしまう。省力化のような高い付加価値を、普及の糸口にしたい」