「重い」「厚い」といったトリプルガラスの弱点を克服する新技術が登場した。複層ガラスにエアロゲルを挟み込んだり、異分野の技術を転用して真空断熱ガラスを製造したり。省エネ住宅への関心が高まるなか、高断熱窓の市場を巡る戦いが激化しそうだ。
新築戸建て住宅での普及率が100%に近づいてきた複層ガラス。大開口窓が人気を集めるようになり、3枚のガラスで2層の中空層を確保して断熱性能をより高めたトリプルガラスも注目を浴びている。
ただし、トリプルガラスには価格のほかに「重い」「厚い」といった弱点がある。トリプルガラスに負けない断熱性能を確保しつつ弱点を克服し、世界で1兆円とされる高断熱窓市場に殴り込みをかける企業が現れた。
エアロゲル
エアロゲルは「凍った煙」などと表現される多孔性物質で、高い断熱性能を誇る。住宅や自動車の断熱材、衣服など用途は幅広い。ティエムファクトリが透明の板状エアロゲルを住宅の窓に搭載しようとしている
ティエムファクトリ
最強断熱材「エアロゲル」
重さは1cm3当たり0.11g。まるで空気を持っているかのような不思議な感覚──。素材ベンチャーのティエムファクトリ(東京都港区)が開発しているエアロゲル「SUFA(スーファ)」が、住宅の窓に断熱材として搭載される日が近づいている〔写真1〕。
スーファの熱伝導率はわずか0.012~0.014W/mK。断熱性能はグラスウールの約3倍に達する。厚さ12mmのスーファを厚さ3mmのガラスで挟み込んだ窓の熱貫流率(U値)は0.53W/m2Kだ〔図1〕。
熱伝導率 | 0.012~0.014W/mK |
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接触角(撥水性) | 140度 |
可視光透過率 | 厚さ1cmで可視光を90%以上透過 |
密度 | 0.11~0.12g/cm3 |
耐熱温度 | 酸素雰囲気中で467℃ |
曲げ強度 | 0.05~0.4MPa |
圧縮強度 | 9.22MPa |
平均空孔径 | 50~70nm |
一般的なトリプルガラスの厚さは30~40mmほどあり、熱貫流率は0.8~1.0W/m2K程度だから、製品化のインパクトは大きい。ティエムファクトリはYKKAPと商品開発を進めている。同社の売れ筋製品に、スーファをはめ込むイメージだ〔図2〕。
ティエムファクトリの山地正洋社長は、「トリプルガラス程度の価格帯を狙う。製品のリリースは2021年以降になると思うが、20年中には住宅で実験的に使ってもらいたい」と闘志をみなぎらせる。
分子が触れ合うことすらない
「世界最強の断熱材」と呼ばれるエアロゲルは、ゲル中の溶媒を乾燥させてつくる多孔性物質。スーファは50~70nmという極小の空隙を無数に持つ。空隙がこれだけ小さいと、内部に保持した空気が動かないだけでなく、空気中の分子同士が触れ合って熱を伝達する現象すら起こらない。これが、高い断熱性の秘密だ。
エアロゲルは超臨界乾燥と呼ぶ特殊な方法で製造するためコストが高く普及していなかったが、同社の取締役を務める名古屋大学未来材料・システム研究所の中西和樹教授が常圧での製造法を発明したことで、安価に量産するめどがついた〔図3〕。
スーファはシリコン樹脂に近い成分なので、特別な処理をせずとも撥水性を持つのが特長だ。従来のエアロゲルはシリカ微粒子から成るため、吸湿性が高いという弱点があった。
ティエムファクトリは既に、30cm角のスーファを高い歩留まりで製造する技術を保有している。製品化に向けて、透明度を高めつつ、1m×2mほどに大判化するのがテーマだ。透明度を高めるには、空隙の大きさをなるべく小さく、しかも均一にして光の散乱を抑える必要がある。「大判化すると均一性が下がりやすいので、両立が難しい」(山地社長)
ティエムファクトリとYKKAPは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、京都大学、名古屋大学と共同で高断熱窓の実用化を急ぐ。