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ザワつく材料図鑑 ❼

透明な木材(Transparent Wood)

木材から細胞壁の主要成分であるリグニンを取り除き、ポリマー(重合体)を含浸させてつくる。スウェーデン王立工科大学の研究チームが開発を進めている。木材でありながら光を通すため、ガラスの代わりに窓などに使える可能性がある

 木材の細胞壁の主要成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニン。このうちリグニンは、紫外線などの光を吸収して変色していく性質で知られる〔図1〕。

〔図1〕リグニンは木材の細胞壁の主成分
〔図1〕リグニンは木材の細胞壁の主成分
木材の細胞壁の構造。鉄筋コンクリートに例えると、セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリートの役割を果たしていると考えられる(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 スウェーデン王立工科大学(KTH)のラース・バーグランド教授のチームが2016年に発表した「透明な木材(Transparent Wood)」は、バルサ材からリグニンを化学処理で取り除き、代わりに光の散乱を抑えるアクリルを含浸させて作成した、新たな建築材料だ〔写真1〕。

〔写真1〕85%の透過率を有する「透明な木材」
〔写真1〕85%の透過率を有する「透明な木材」
スウェーデン王立工科大学の研究チームが、建材への適用を目指している(写真:スウェーデン王立工科大学)
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 木材由来の材料でありながら、85%もの透過率を有する。現状では、透明度を維持しつつ厚さ1cm以上にするのは難しいものの、開発が進めば自然光を通す特徴を生かして、建物の窓などに使える日がやって来そうだ。

 すりガラスのような適度な“濁り”が光を拡散するので、室内の明るさを均一にできる。プライバシーを保てるのもメリットだ。木材がベースなので、ガラスに比べて熱伝導率が小さく、断熱性能が優れている。

 強度は使用する樹種に依存する。もちろん、通常の木材のようにくぎを打ったり、のこぎりで切断したりして、容易に加工できる。

蓄熱・放熱で室温を一定に

 バーグランド教授とKTHの研究者であるセリーヌ・モンタナリ氏は19年4月、この技術を発展させて、リグニンを除去したシラカバに生分解性のポリエチレングリコール(PEG)を含浸させた新たな「透明な木材」を米国化学会(ACS)で発表し、注目を浴びた。これまでと同様に光を通すだけでなく、気温に応じて熱を吸収したり、放出したりする機能を併せ持つのが特徴だ〔写真23〕。

〔写真2〕熱の出入りに応じて透過率が変化
〔写真2〕熱の出入りに応じて透過率が変化
2019年に発表した改良版では、熱の出入りに伴って透過率が変わる。熱を吸収すると透明に近づき、放熱するとすりガラスのようになる(写真:米国化学会)
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〔写真3〕KTHの研究チームが開発を急ぐ
〔写真3〕KTHの研究チームが開発を急ぐ
スウェーデン王立工科大学(KTH)の研究チーム。右から2人目がセリーヌ・モンタナリ氏、5人目がラース・バーグランド教授(写真:スウェーデン王立工科大学)
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 PEGは「相変化材料」などと呼ばれ、温度変化に伴って固体から液体に、あるいは液体から固体に変化する性質を持つ。その際に、大量の熱を蓄えたり、放出したりする。PEGを注入した透明な木材を、ガラスの代わりに窓などに使用すれば、建物のエネルギー消費量を減らしつつ、室内の温度を一定に保つ効果が得られる。

 固体から液体に変化する際の温度は約26℃。ただし、温度は分子量を変えることで簡単に調整できる。固体から液体に変化しても、木材の多孔質構造のおかげでPEGが漏れ出ることはない。

インテリアへの適用目指す

 面白いのは、相変化に伴い透明度が変化する点だ。屋外が暑い場合は熱を吸収し、透明になる。夜間に気温が下がると屋内に熱を放出し、不透明さが増す。

 モンタナリ氏は、「木材は、建築分野で使用される生物由来の材料の代表例。環境問題への貢献という観点からも、再生可能な資源から得られた建築材料の使用量を増やしていくことが重要だ」と説明する。

 モンタナリ氏は透明な木材を「住宅や建築物のインテリアに適用したい」と語る。建築材料として普及させるうえでの課題は、生産技術の確立だ。研究チームは早ければ5年で実用化できるとみている。チームは蓄熱容量の向上にも取り組んでいる。